クアルコムがスマホ独占できた秘密
もはや言わずとしれたスマートフォン市場の覇者、Qualcomm(クアルコム)。2016年の売上高は240億ドルと半導体メーカーでトップ5に入る規模ながら営業利益率は28%長の荒稼ぎぶり。10年前の2006年の売上は80億ドル未満。CAGR(年平均成長率)12%の急成長っぷり。利益の源泉はスマートフォン向け半導体と通信技術のライセンス収入。競争の激しいスマホ市場でここまで成長できた秘密を探ってみた。
Qualcommがスマホ市場独占に成功した秘密は3つある。
通信技術の優位性
Qualcommは通信分野の技術的優位性を常にキープしている。他社が真似できないその秘密は軍需予算にある。稼ぎ頭のCDMAはもともと軍事用暗号技術だった。Qualcommは今もDARPA(アメリカ国防総省の研究機関)のプロジェクトを手がけている。
大学で生まれた先端技術を防衛予算の援助で知的財産を固め、民間転用してライセンス収入を稼ぐという非常にアメリカ的なモデルケースだといえる。
キャリア認証の壁
基本的に携帯電話は各国、各通信キャリアの仕様に合わせた認証試験に合格しないと販売できない。いわゆるキャリアIOTと呼ばれる試験。
ドコモはFOMA、auはcdmaoneなど通信キャリアの都合で通信方式やバンドを決めていくので、携帯電話端末はキャリアごとにチューニングが必要になる。ここでクアルコムの真骨頂が発揮される。
バッテリー持ちや通信速度を左右するモデムチップは携帯電話のキーパーツであり、3G以前は携帯電話メーカーが内製したりカスタムしていた。
しかし2000年頃から潮目が変わっていく。3GでCDMAが採用され、クアルコムのモデムチップならキャリア認証を確実に通せるという安心感が生まれた。また、クアルコムのモデムチップを使えばCDMAのライセンス料を安くするという独占禁止法すれすれアウトな抱き合せ商法を編み出した。その結果、モデムチップは内製から外部調達するものになった。
汎用品となるとスケールメリットが働き、3Gモデム最大手のクアルコムの一人勝ちとなった。日本市場は特殊なキャリア認証が壁となって電電ファミリーが守られていたが、スマートフォンの普及でガラパゴスケータイが絶滅したのと同時にSnapdragonとそのチップセットに一掃された。
選択と集中
クアルコム成功の秘密を紐解くと、軍事技術を民間転用したコア技術と規格策定のロビー活動から政治的な匂いがするのは事実。とはいえ政治的な理由だけではここまでの成功は成し得なかっただろう。スマートフォン市場を独占するに至った最大の要因は大胆な選択と集中を行った経営判断の巧さにあると思う。
CPUでバクチ
CDMA特許でモデムチップを独占したクアルコムはCPUにも手を伸ばした。
2002年当時、スマートフォンはノキアが業界の雄。ノキアの選択が正解とされた。すなわちSymbian OSにプロセッサはTIのOMAP、CPUアーキテクチャはARMという関係だ。
ARMは2005年にCortex-A8をリリースしたが、クアルコムは独自のCPUコアscorpionの開発に踏み切った。その結果、他社よりも一歩進んだワットパフォーマンスのプロセッサをいち早くリリースでき、開発スピードを重視するスマートフォン市場でクアルコムの独占に拍車がかかった。
普通なら得意のモデムチップを守ることを優先し、苦手なCPUは冒険できないはず。先見の明があったのだろうか。
端末事業は早々と撤退
1994年、クアルコムはソニーとジョイントベンチャーを設立し、端末事業にも参入した。しかしノキア、モトローラ、サムスンなど競合参入で市場価格は下落し、ちっとも儲からないビジネスだった。1999年、早々と端末事業から撤退した。
ちなみにクアルコムの携帯電話端末事業を買い取ったのは京セラ。そして京セラ傘下のKDDIがcdmaOne全国でサービス開始したのま1999年。
ファブレスに徹する
クアルコムは創業当初から自社工場を持たないファブレス企業。スマホ向けのチップがどんなに売れてもあくまでファブレス。半導体産業の水平分業が進みファウンダリが大きくなったことも追い風だった。とかく自社工場にこだわりがちな日本企業とは対照的。
車載、IoTにシフト
クアルコムはスマホ用SoCで相変わらず圧倒的な市場占有率だか、最近は成長が鈍化してきた。まずスマホ市場の伸びはピークに達しつつある。さらにmediatek、サムスン、Hisiliconなど中韓台の競合が迫追い上げてきている。特に中国や新興国向けの格安スマホではお手上げ状態。
そこでクアルコムはスマホの次の収益の柱として車載とIoTの開拓に乗り出した。車載半導体大手のNXPを470億ドルで買収するという思い切りの良さがクアルコムらしい。