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マーケティング戦略の思考記録

車載市場

ソフトバンクが狙う自動運転時代の事業戦略

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ADSL、iPhone、プロ野球とわらしべ長者のように急成長するソフトバンク。直近ではIoTや自動運転分野への参入も発表している。

ソフトバンクは良く言えば機を見るに敏、悪く言えば儲かりそうなビジネスのつまみ食い傾向がある。IoTや自動運転というキーワード先行で、何をしたいのかが見えづらい。ARM社がその典型だが、ソフトバンク傘下になったことでかえって企業価値が低くなる、いわゆるコングロマリット・ディスカウントに陥っていないだろうか?

そんなちょいと意地悪目線でソフトバンクの自動運転・IoT関連の事業戦略を整理してみた。

孫社長の野望

インタビュー記事等の孫社長のコメントをまとめると、こんな感じの発言が多い。

  • これから「ソフトバンク2.0」になる。
  • 目指すのはハイテク業界のウォーレン・バフェット。投資事業がコアビジネス。
  • 以下領域で業界のけん引役を狙う
    • IoT
    • シンギュラリティ(人工知能が人間の能力を超える)の到来
    • 自動運転
  • ARM社買収はIoTのパラダイムシフトに備えた最初の一手。これから10年先の明確なロードマップを持っている。

「ハイテク業界のウォーレン・バフェット」というのは良いポジショニングに目をつけたと思う。ウォーレン・バフェットを真似るといえば長期投資で企業を支えるポジティブイメージを得られる。しかもウォーレン・バフェット翁はハイテク株を毛嫌いするイメージがあるが、ソフトバンクならそれを払拭できる。

あとはバズワードを並び立てるだけって感じかな。今のところARMのロードマップに説得力なし

IoTの成長ドライバは自動運転

なんでもかんでもIoTと呼ぶ昨今だが、いちばん確実な成長が見込まれるのが自動車市場、とくに自動運転関連。

市場規模=数量×単価に分解できるが、自動車市場のIoT需要数量、単価ともに急拡大が確実視されているからだ。

コネクテッドカーの台数爆増

まず、数量の急拡大。いまはコネクテッドカーはほぼゼロのようなものだが(テスラのような例外を除く)、2020年ごろにはほとんどすべての新車がコネクテッドカーになると言われている。つまり年間1億台ちかい需要がドカンと生まれるわけだ。

調査会社IHSテクノロジーによると、2022年に発売される自動車の94%がネット通信機能を搭載すると予想している。たとえばトヨタ自動車は2020年までに日米で発売するほぼ全車両にDCM(車載通信機)を標準搭載すると発表している。自販機でコカ・コーラが値下げしたら他社も追随するのと同じく、トヨタが標準搭載するなら、他社もすぐに真似るという当たり前の理屈だ。

自動運転で単価上昇

つぎに単価の上昇。自動運転は馬車から自動車になったのと同じくらいのインパクトがある付加価値。数十万円のオプションでも自動運転なら購入したいと思わせる強烈な魅力がある。

自動運転のキーテクノロジーが「通信」、「ディープラーニング」、「人工知能」の3つ。自動運転とは自動車とクラウドが常につながり、膨大な情報をディープラーニング処理する人工知能によって成立するシステムだ。

まとめると自動車とIoTの組み合わせた領域に自動運転という金脈が眠っていて、ソフトバンクはゴールドラッシュ一番乗りを目指しているというワケだ。

「戦わずして勝つ」戦略

ソフトバンクの自動運転市場への取り組みはちょっと変わっている。あれだけ派手に宣伝していながら、じつは自動車のハードやソフトの開発には直接関与していない

自動運転車の開発はAlphabet(Google親会社)やトヨタ自動車、テスラ、nvidiaなど世界中の企業が参入する激戦区。まさしくレッドオーシャン、無差別級のデスマッチであります!

ソフトバンクは泥臭い技術競争からは距離をおき、その周辺分野、つまり自動運転時代に必要になる通信インフラやサービスに投資している。

このあたりが分かりづらさを生む要因だと思う。あけすけにいうと「ソフトバンクは虚業だ」と批判されることが自明なのでね。

中国だけは自動運転車の開発に参入

ソフトバンクは自動運転車の開発に直接関与しない方針だが、中国は例外だ。

アリババ(Alibaba, 阿里巴巴)を通して、自動運転のハード開発も手がけている。アリババは高精度地図開発のAutonavi(高徳)を買収し、さらにドイツ HEREと提携を発表している。

ご存知のように中国はチャイナリスクとファイアウォールがあり、ITシステムも独自のエコシステムを形成している。Googleは市場撤退し、検索エンジンはバイドゥ(百度)が、ネットショッピングはアマゾンではなくタオバオ(アリババの主力)といった具合。自動車も外資規制があり、中国資本との合弁が必要。技術流出の恐れから大手メーカーは慎重になっている。

そこでタオバオやバイドゥ、テンセントといった中国のIT企業に商機が生まれる。検索エンジン、ネットショッピング、ツイッターなど世界で流行っているサービスを丸パクリして中国に移植するだけで独占的利益を得られる濡れ手に粟のビジネスモデルだ。

一党独裁体制であるかぎり中国の参入障壁がなくなる可能性は低いので、アリババのデッドコピー戦略は自動運転でも通用しそう。

「丸パクリとか感じ悪いよね」と思えども、合法的に儲かるなら結果OKなのが資本主義。しかも虚業批判をかわせるという副産物もあり、中国限定の開発活動は一石二鳥のしたたかな作戦だといえる。

中核は通信事業

結局のところ、ソフトバンクの商売のメインは通信事業コネクテッドカーの普及で移動体通信のデータ通信が増えればパケット通信料を稼げるという理屈。

とはいえ本気度は低そうだ。通信キャリア事業は国ごとの規制があるうえ、各国の電電公社がシェアを握っているため、グローバル展開がやりずらい。買収した米スプリントも売却検討が噂されている。

国内も苦戦するだろう。自動車がスマホと同じくSIMフリーになる気配はない。自動車メーカーはドライバーからクレーム受けることを避けるため、提携する通信キャリアは慎重に選ぶはず。トヨタとKDDIのように資本関係がある仲を外様のソフトバンクが割って入るのは容易ではないはずだ。

本命はARM

自動運転がアツい!だから通信事業が儲かる!でも通信キャリアは苦戦が予想・・・そこで頼みの綱がARMになる、というわけ。

スマホから自動車へ

ARMは低消費電力かつ高性能が特徴のCPUアーキテクチャで、スマートフォン用途のアプリケーションプロセッサでほぼ100%シェアを持っている。

スマホ市場の成長は飽和しつつあり、ARMも次の成長領域として自動車市場に注力している。

すでにARMコアを採用する車載半導体は数多いが、いずれもカーナビなどカーインフォテイメント分野が中心だった。よりハイレベルな信頼性が求められるエンジン制御などパワートレイン系では採用例がほとんどなかった。

その状況を打破すべくミッションクリティカルな用途を狙って開発したのが2016年9月に発表した「Cortex R52」だ。機能安全規格「ISO26262」で規定される最高水準の信頼性グレードASIL Dに対応したのが特徴。また、車載半導体大手のSTマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics)はCortex R52のライセンス取得したことを発表している。

ARMだけが知りうる機密情報

ソフトバンクがARMを買収したもうひとつの狙いは「情報力」だと言われている。ARM社にはあらゆる半導体メーカー・ソフトウェアメーカーの開発情報が舞い込んでくる。さらに出荷台数ベースのライセンス収入のデータを分析することで、市場動向の変化をリアルタイムに察知することができる。

ARMだけが知りうる機密情報こそが投資事業で稼ぐソフトバンクが一番欲しいモノだと推測される。IoTや自動運転やらは世間の目をごまかす張り子の虎。ぶっちゃけ、ARMのライセンス事業とソフトバンクの通信事業の間にシナジー(相乗効果)はまったくない。直接的にも間接的にも全然まったく関係ない。コングロマリット・ディスカウントで企業価値はむしろマイナス。

逆に、そこまでして欲しいのがARMの情報力。もちろん表向きはファイヤー・ウォールで情報統制するという建前だろうが、ARMの情報はソフトバンクに筒抜けになると覚悟しておくべき。

データセンターでインテル追随?

ARMはデータセンター用プロセッサにも注力する方針だ。いまは99%がインテルだが、孫社長は2021年ごろまでにARMのシェア20%にするという目標を掲げている。

その布石となるのが2020年に完成予定のスーパーコンピュータ「ポスト『京』(仮称)」の開発プロジェクト。プロセッサの命令セットにARMを使うことが決まっている。富士通によるとSPARCからARMに変更した理由は消費電力性能ではなく「ARMには仲間が多いから」。つまりARMをサポートするサード・パーティのソフトウェア・ライブラリが充実しているからだという。

国家予算のついたスパコン事業で技術力を高め、クラウドサーバ用に技術転用するという作戦は悪くない。ただ、これはインテルやエヌビディアも同じことをしていて、しかも米国は国家予算も大学予算も桁違い。体力勝負になると苦戦しそうだ。

SBドライブとは?

ソフトバンクのIoT/自動運転関連で金融とARM以外の事業はまだふわっとしている状態だ。

よく名前があがるのがSBドライブ株式会社。ソフトバンクと先進モビリティ株式会社の合弁会社だ。

先進モビリティはトヨタOBが設立した東大発のベンチャー企業で、自動運転バスの開発を行っている。SBドライブは車両自体の開発は行わず、バス運行管理サービスなど周辺のインフラやサービスの提供を目指すそうな。

ぶっちゃけ、SBドライブのビジネスモデル、もっと端的に「何でお金を稼ぐのか?」という答えはない。覇気のある若手が直談判して立ち上げた社内ベンチャーというストーリーは情緒的に応援したくなる。しかし収益面だけでドライに表現したら「ソフトバンクのPR活動」という印象。1円のゼニも産まないナンセンスなCSR活動(企業の社会貢献)より、よほど魅力的だけどね。

SBドライブ 佐治社長「必需品としての自動運転を目指す」 | レスポンス(Response.jp)
社長「今の段階では(収益に結び付く)確実なビジネスモデルは、残念ながら持ち合わせておりません。」・・・すごい正直な御方
ソフトバンクが自動運転市場に参入:日経ビジネスオンライン
典型的な見出し落ちの記事
29歳が社長に直談判ソフトバンク自動運転の勝算|日経カレッジカフェ | 大学生のためのキャリア支援メディア
情緒的に訴えるストーリーはあるけれど。

ARM外しの動き

IoT&ディープラーニング分野では「ARM外し」の動きも出てきている。ソフトバンク買収のきな臭い動きを察知したのか、はたまた巨大市場を狙ってなのか、思惑は定かではないが。

代表例がGoogle。IoT向けに低消費電力・オープンソースを売りにした「RISC-V」というアーキテクチャを推進している。さらにディープラーニングでは「TPU」という機械学習専用IC(ASIC)を開発し、すでにGoogleのデータセンターで使用している。そしてソフトウェアではARMの競合になるインテルと提携し、Googleの機械学習システム「TensorFlow」をインテル・アーキテクチャに最適化していく方針だ。

そもそもARMが他のCPUアーキテクチャより格段に優れているかというと、そんなことはないARMが急成長したのはスマホ市場が急成長したからで、なぜスマホ市場で独占的なシェアをARMが持っているかというと、歴史的な経緯からノキア(に供給したTI)とクアルコムがARMを採用していたから、という単純な理由。詳しくは下記記事参照あれ。
ARMのIoT覇権に待ったをかけるRISC-V - おばかさんよね
クアルコムがスマホ独占できた秘密 - おばかさんよね
Snapdragonの誕生からマンネリ化まで - おばかさんよね

まとめ「ポジショニングとイネーブラー」

IoT/自動運転市場を狙ったソフトバンクの事業戦略のポイントは漁夫の利を狙うポジショニング戦略。そして成否のカギを握るのはイネーブラー(実現に必要不可欠な技術)があるか、どうか。イネーブラーの頼みの綱はARMだが、先行き不透明

大胆かつリスキーな戦略だが、失敗しても大丈夫。表立って宣伝できないものの、ARM社の情報力を利用した投資事業は確実な収益が見込まれるからだ。

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