おばかさんよね。

陳腐化したコモディティ商品を差別化するには?

公開日:  更新日: 2017/10/08

ヒット商品を分析してマーケティング手法を考える。ベストプラクティスのネタとして。
今回のお題は「家庭用はさみ」
いまどきはさみは100円ショップで当たり前に売られているし、切れ味も十分。
陳腐化したコモディティ商品を差別化するにはどうしたらよいか?
という商品企画のテクニック。

値下げしないで売る方法

値下げ競争は誰でもできる。
コモディティ商品で価格競争というレッドオーシャンを脱して、
高付加価値なブルーオーシャンを開拓するにはどうしたらよいか?
そこが企画屋の腕の見せどころ。

顧客ニーズを調査する?
(。 ̄x ̄。) ブーッ!
だって百均のはさみで不満はないのだから。

しかしそこであきらめちゃいけない。
常識を疑い、潜在的ニーズを探せ!
ユーザー自身も気付いていない不満にWANTS(ウァンツ)は隠れている。

潜在的ニーズを見つける具体例

まず、はさみの用途を洗い出す。
そして用途ごとにユーザになりきって不満や改善点を探してみる。
試行錯誤の末に発見したはさみの潜在的ニーズとは
【刃の奥は切れやすくても、刃先に近づくほど切りづらいこと】
菓子包装のビニールや分厚いタオルを切っているとグニャッとなってしまった経験あるでしょ?

ニーズを満たすソリューションの考え方

ニーズが見つかれば解決策は目前。
なぜなぜ分析で真因を抽出して、
ロジカルシンキングでソリューションにたどり着ける。

なぜビニールは刃先だと切りづらい?
理由:ビニールは柔らかいのでグニャっとなるから
なぜグニャッとなる?
理由:刃先は抑える力が弱いから
なぜ抑える力が弱い?
理由:刃先は挟む角度が鋭角だから(=真因)
ソリューション:
開く角度が常に一定になるように刃をカーブさせる。

はさみの売上が2倍になった

家庭用はさみという成熟市場で、
新しいニーズを見つけ差別化に成功したベストプラクティス、
それがプラス(株)の「フィットカットカーブ」。
めちゃくちゃ切りやすいと評判になり、大ヒットした。
私がざっくり推計した感じだと、普通のはさみの2倍近く売れているようだ。

まとめ

コモディティ化した市場で差別化するには潜在的ニーズを探す。
潜在的ニーズを見つけるには当たり前を疑う。
「はさみ=紙を切る」という思い込みに気付くことがヒントになった。
プラス(株)が開発前に行った消費者調査によると、家庭用はさみで薄い紙を切る機会はたった8%で、ありとあらゆるものを切っていることが分かった。つまり使いやすいはさみ=何でも切りやすい万能選手ということ。

はさみの市場規模のフェルミ推定

「フィットカットカーブ」がどれくらいバカ売れしているのか、そのインパクトを推定する。

プラス(株)のプレスリリースによると
2012年1月の発売から2015年10月の期間でシリーズ累計1,000万本以上が売れているそうだ。
1年ごとの単純平均は約200万本だが、そもそも普通のはさみがどれくらい売れているのか分からないと
「だからなに?(So What?)」
で終わる。

そこで家庭用はさみの国内市場規模のフェルミ推定。
生活用品なので1世帯あたり1年に1本のはさみを購入しているイメージから
年間出荷台数は5千万世帯×1本=5千万本/年

経験則的なパレート最適から、
30%の定番商品が全体売上の70%を占めており、
かつ、国内にはざっくり100種類のはさみが発売されていると仮定すると、
定番商品の1モデルの平均売上本数は約120万本/年
…(5千万本×70%)÷(100モデル×30%)

ここまで分かれば
「はさみは年間120万本売れたらヒット商品と言われるなかで、刃をカーブさせるアイデアで年間200万本の大ヒットとなった」
と定数的にインパクトを表現できる。

最後にフェルミ推定の妥当性を検算してみる。
ソース不明だが、文具用はさみの国内市場規模は年間180億円という記事があった。
どちらも正しいとすると、はさみの平均単価は
180億円÷5千万本=360円
となるので、少なくとも桁外れではなさそうだ。