クアルコムとエリクソン、メディアテックの昔話
Ericsson
スウェーデンのEricsson(エリクソン)はWCDMAとCDMA2000の規格化でQualcommと泥沼の争いをしていた。
しかし1999年3月、両社はCDMA技術に関する和解とクロス・ライセンス契約を発表した。概要は以下。
- Qualcommの基地局部門をEricssonに売却
- Ericssonの一部特許をQualcommがサブライセンスすることを許可
- EricssonのGSM関連特許もQualcommにライセンスする
Qualcomm, Ericsson settle CDMA squabble as part of larger agreement | EE Times
ERICSSON and Qualcomm Reach Global CDMA Resolution | Qualcomm
Qualcommプレスリリース
Mediatek
メディアテックがクアルコムと結んだ特別なライセンス契約のメモ書き。
携帯電話事業への参入
2000年頃から携帯電話向けSoCに参入し、手始めにGSM/GPRSの2G用チップを開発した。
大手の携帯電話メーカーはMediatekを相手にしなかった。そこでMediatekはリファレンス・デザインを提供し、誰でもプラモデル感覚で携帯電話を作れるサービスを提供した。いわゆるターンキー・ソリューションが中国の中小メーカーにバカ受け。山寨機(サンサイキ、shanzhai。山賊の棲家、転じて模様品の意)と呼ばれる低価格なバッタモンが中国国内で普及し、Mediatek 社長の蔡明介氏は「山寨王」の異名を得た。
2006年にはMediatekの中国メーカーの携帯電話用チップのシェアは45%に達していたという。
2Gから3Gへの移行
山寨機向けリファレンス・デザインで大成功したMediatekだが、そのビジネスモデルをパクった中国 Spreadtrum(展訊)の参入で経営が悪化する。
Mediatekの顧客はWPGという半導体商社を通すことで、中国の有象無象の中小メーカーとの売掛金回収リスクを回避していた。しかしWPGがSpreadtrumも取り扱うようになると価格競争に陥り、2010年頃から収益が悪化していく。
Mediatekは3Gスマートフォンで再起を図ることになる。
QualcommとMediatekのライセンス契約
2009年、MediatekはQualcommからCDMAとWCDMAのライセンス契約を締結する。その詳細は非公開だが、関係者によれば以下のような契約内容だという。
- QualcommへのCDMAおよびWCDMAのライセンス料をMediatekは免除される。
- ライセンス料免除の見返りとしてMediatekは自社の機密情報をQualcommに開示する。
- Mediatekが開示する機密情報にはチップセットの販売先、販売量、販売価格が含まれる。
- ライセンス料免除が適用されるのはQualcommが指定した携帯電話メーカーに販売した場合のみ。実質的にMediatekが販売できるのは山寨機メーカーなど中国ローカルの中小メーカーに限られる。
2009年のライセンス契約はMediatekが3Gスマートフォンで競争力を高めるのに大いに役立った。なにせライセンス料を免除されているから価格競争力がある。2Gの山寨機と同じ低価格なターンキーソリューションを3Gスマートフォンでも展開した。その結果、中国の代名詞になった偽iPhoneや偽ブランドスマホでMediatekが定番チップとなった。
一見、Qualcommが貴重なライセンス収入を放棄したように見えるが、さにあらず。Qualcommはライセンス料をモデムチップと携帯電話端末から2重取りしている。損して得を取るとはまさにこのことで、Qualcommでは自社製品でカバーできない超廉価スマホの市場をMediatekに開拓させ、さらにMediatekの販売履歴を入手することで中国の狡猾な携帯電話メーカーからライセンス料を取りっぱぐれることを防いだのである。
Qualcommのメリットは他にもある。当時、中国はQualcomm特許を回避した独自の3G規格「TD-SCDMA」を推進していた。Mediatekのライバル SpreadtrumはTD-SCDMA推進派だった。うかうかしていると低価格帯はTD-SCDMAのSpreadtrum一択となりかねない。W-CDMAやCDMA 2000のようにQualcomm特許を回避できない通信規格を中国で普及させることにもMediatekが役立った。
補足
サムスン電子、米クアルコムと特許共有ライセンス
前金13億ドル+ロイヤリティ。契約は2009年から15年。
PDF:KFTC通告の解説
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