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Ambarellaの銘柄分析。暴落した今が仕込み時か?「ポストNVIDIA」として期待。

公開日:  更新日: 2018/03/08

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FY2018Q2決算説明会後、Ambarellaの株価は20%以上の暴落となりました。
株価暴落の原因、Ambarellaの事業見通し、株価予想をまとめました。

結論

  • 株価暴落は過剰反応
  • 短期的な業績は伸び悩むが、将来性あり
  • 「次のNVIDIA」の投資先として検討価値あり

Ambarella社とは?

Ambarella社(AMBA, アンバレラ)はアメリカのファブレス半導体メーカー
高精細なビデオ圧縮を低消費電力で実現するSoC(システムオンチップ)が特徴。
アクションカメラやドローンではAmbarellaのSoCがデファクト・スタンダードとなっている。

画像圧縮技術の権威であるFermi Wang(王奉民)氏が2004年に総業したベンチャーである。
2012年10月にNASDAQ上場。

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アンバレラの実

アンバレラとはフルーツの名前。マンゴーの一種。社名の付け方はアップルと同じ発想?

株価暴落の原因

FY2018Q2(2017年4月〜6月期)の実績は市場予想をわずかに上回りました。
しかしFY2018年下期の見通しが下方修正されたことが材料視され、9月1日金曜日にAmbarellaの株価は20%以上の大幅な下落となりました。

Ambarellaが業績見通しを引き下げた主な理由はドローン大手DJIでの失注です。

Ambarellaの屋台骨だったアクションカメラとドローンでの失速が投資家の心理に大きく響いたようです。

アクションカメラについては、17年3月開催のFY2017Q4決算説明会においてGoProの新型モデルを失注する見通しであることを発表していました。

DJI Sparkが売れ行き好調


DJIの新型廉価ドローン「Spark」。実売6万円。


4k対応の上位モデル「Mavic PRO」。実売13万円。

FY2018Q2決算説明会によると、業績見通しを引き下げた最大の要因がドローン市場の競争激化です。

これまでAmbarellaのSoCはDJIのドローンでずっと採用されてきました。
しかし新型廉価ドローン「Spark」ではAmbarellaは不採用となり、
インテルに買収されたMovidius社の「Myriad 2 VPU」に置き換わっています。

上位モデルのドローン「Mavic PRO」では、AmbarellaのSoCとMovidiusのMyraid VPUが両方が搭載されており、
録画処理がAmbarella、画像認識がMovidiusという役割分担になっていました。

ところが新発売の廉価ドローン「Spark」では録画処理もMovidius「Myriad 2 VPU」に集積されてしまったのです。
「Mavic PRO」は4k対応、「Spark」はフルHDなどの違いはありますが、どちらもホビー用途を狙ったミドルクラスのドローンです。
なんといっても「Spark」は値段が半分以下なので、「Mavic Pro」の売上を「Spark」が奪っていると思われます。

ドローン市場での失速懸念

Ambarellaの業績面で懸念されるのは、Movidius Myraid VPUのようにAmbarellaのSoCを必要としないソリューションが「Spark」以外のドローンでも拡大していくことです。
これは大いにありうるリスクです。

Ambarellaの牙城である大型ドローンでもMovidiusソリューションに置き換わる脅威がありえます。
なぜなら、ドローンは重量と消費電力が重視されるため、多少の性能差よりチップの数を減らすことが優先されるからです。
それにMovidius Myraid VPUが4k対応するのは時間の問題でしょう。

さらにQualcommのドローン参入も大きな脅威です。
ジェスチャーで操作したり、人に追尾して自動飛行したりと、画像認識能力が重視される用途は高性能なプロセッサを持つQualcommやインテルの得意分野です。

業績予想を下方修正

FY2018Q2決算説明会で発表された業績予想の要点はこの3点です。

  • FY2018Q3の売上予想は$87.5M〜$90.5M。前年同期比-12.9%〜10%
  • FY2018通期の売上予想を-3%〜-7%に下方修正。前回予想は-3%〜0%だった。FY2017通期売上高は$310M。
  • FY2018Q3の粗利率予想は62%〜63.5%。前年同期は66.3%。

右肩上がりが期待されるベンチャー企業としては不十分?
むしろ、主要顧客だったGoProを失注し、さらにDJIの廉価モデルも失注したことを考慮すると大健闘に見えます。
それでも株価が20%以上下落したということは、市場はさらに一段の業績下方修正を見込んでいるのかもしれません。

今後の見通し

株価20%下落!となると先々が心配になりますが、将来の見通しは決して暗くありません
市場セグメントごとの材料を整理してみます。

アクションカメラ市場はブルーオーシャン

GoPro HERO6を失注

アクションカメラ最大手GoProの主力機種「HERO5」の後継モデル「HERO6(仮称)」ではAmbarellaのSoCが不採用となる予定です。
「HERO6」は早ければ2017年10月ごろに発売予定という噂です。

実際、GoPro向け売上はFY2018下期から急減する見通しです。
FY2017Q4時点ではGoPro向け売上が全体の32%もあり、Ambarella社はGoPro依存度がとても高かっただけに、GoPro HERO6の失注はとても痛いニュースです。

中華アクションカムはブルーオーシャン

しかし心配ご無用。
アクションカメラ市場でGoProのシェアが低減しており、
ガジェット好きにはお馴染みの中華アクションカムが台頭してきているからです。
参考:【徹底比較】アクションカメラの選び方。最強なのはGoPro?ソニー?中華? - おばかさんよね。

ひと昔前まで主流だった「安かろう、悪かろう」という激安粗悪な中華アクションカムは淘汰されつつあり、AmbarellaのSoCやソニーのイメージセンサーなど一流部品を採用したGoPro対抗コスパ重視モデルが売れ筋になりつつあります。

中国市場での勝ちパターン

この市場の流れに見覚えがありませんか?

そう、中国の携帯電話市場と似たパターンなのです。

中国の携帯電話市場では「山寨機」と呼ばれる粗悪なコピー電話が横行していました。
粗悪品しか作れない山寨機メーカーはスマホ化の波に飲み込まれて淘汰されていきましたが、かわりに中国市場を牛耳ったのはノキアやソニーのような老舗企業ではありませんでした。
”iPhoneっぽいスマホ”を”手の届く価格”で提供したHuawei、Xiaomi、OPPOといった技術力のある中国メーカーが急成長したのです。

同じパターンがこれからのアクションカメラ市場でも起きていくとすると、AmbarellaのSoCにはブルーオーシャンが広がります。

独占の秘密

中国市場向けスマホ用SoCはQualcomm社やMediatek社が圧倒的なシェアを獲得しました。
独占(寡占)の秘密は「CMDA特許」と「ターンキー・ソリューション」でした。
詳しくはこのあたり参照。
クアルコムとエリクソン、メディアテックの昔話 - おばかさんよね。
これは酷い…Qualcommが要求するライセンス契約の実態 - おばかさんよね。

Ambarellaは他社より完成度が高い「ターンキー・ソリューション」をすでに提供できているはずです。
AmbarellaのSoCは中華アクションカムのもはや定番部品ですし、ドローンやドライブレコーダーなど様々な中華ガジェットで採用されているからです。

QualcommのCDMAライセンスほど強烈な特許はAmbarellaにはありませんが、
高精細なビデオ圧縮を低消費電力のプロセッサで実現する独自技術を持っています。
この独自技術はアクションカメラのように限られたバッテリーで駆動する用途では決定的な差別化要素となります。
アクションカメラでも4k対応が標準となり、高解像度化のニーズが高まることも追い風です。

また、アクションカメラはドローンと違ってモバイル通信(3G/4G)が不要です。
GoProがQualcommのSoC「Snapdragon」を採用する噂がありますが、モバイル通信機能がアクションカメラの主流になるとは考えづらいので、Qualcommがアクションカメラ市場に参入してくる可能性は低いです。

DJIのドローンで採用されたMovidiusの「Myriad 2 VPU」や、なにかと話題のNVIDIAについても、アクションカメラでは競合にならないでしょう。
強力な画像処理プロセッサをつめこんだところでメリットが少ないからです。

最近の採用実績

  • ニコン「Keymission 170」。A9AC SoCを採用。
  • EKENの激安中華アクションカム。A12 SoCを採用。
  • Bosch「360 indoor security camera」
  • Nest cam


ニコン「Keymission 170」


Nest cam

ドローン市場は荒れ模様

DJI「Spark」で採用されたMovidius Myriad 2 VPUはAmbarellaにとって脅威です。

これからのホビー用ドローンはスマートなフライト制御機能が流行りそうです。
顔認識して良い感じに写真を撮ってくれる機能、障害物の自動回避、目的地までの自律飛行などなど。
こうなってくると、もはやAmbarellaの処理能力では足りません
NVIDIA、qualcomm、intelなど自動運転向けAI搭載プロセッサの得意領域になってきます。


500機のインテル製ドローンによる編隊飛行。こういう芸当はAmbarellaには厳しい。

「Mavic Pro」のように画像処理はMovidius、録画処理はAmbarellaという役割分担のまま、それぞれの機能が進化していくというシナリオもありえます。
しかしMovidiusが1チップで高度な画像処理と必要十分に高精細な録画処理を両立させたことは驚くべきニュースです。
そして、そのMovidius Myriad 2が採用された「Spark」がバカ売れしているのも事実です。

参考記事:ドローンにも「インテルはいってる」。
Intel Inside DJI Mini-Drone | EE Times

監視カメラ(IPカメラ)は「金のなる木」

監視カメラのなかでもIPカメラ、ネットワークカメラでAmbarellaは高いシェアを持っています。
決算説明会での要点をまとめました。

  • 監視カメラ向け売上は前年比29%増
  • 特に伸びているのは中国・北米向け業務用監視カメラと北米向け見守りカメラ
  • 最新の高効率動画圧縮コーデック「H.265/HEVC」に対応した製品も強み。少なくとも今後数年はHEVCが監視カメラ向け売上を拡大する成長ドライバーとなるはず。

監視カメラの世界でもAIやディープラーニングが注目されつつあります。
監視カメラ最大手の中国HikvisionはMovidiusとの提携を発表しています。

しかし監視カメラにAIやディープラーニングが普及したとしても、Ambarellaの強みは安泰と予想します。
ドローンと根本的に違うのは中央制御型システムだということです。
監視カメラは英語でCCTV(closed-circuit TV)とも呼ばれ、その名の通り、カメラの映像を集約するサーバーが存在します。
こういうシステムの場合、AIやDNNはサーバ側で集中処理、エッジ側(カメラ側)は画像圧縮のみという切り分けが効率的だからです。

そしてIPカメラ市場の需要拡大も確実です。
世界の監視カメラの約8割はまだアナログカメラです。
アナログカメラがデジタル出力のIPカメラに置き換わる動きが本格化するXデーは間近です。
特に中国では2008年の北京オリンピックで急増したアナログカメラがそろそろ製品寿命を迎えるはずです。
IPカメラの爆買いブームがいつ起きても不思議ではありません。

参考記事:監視カメラの主流はまだアナログ方式。IP化はこれから。
監視カメラ編その2●4K/8K対応などでネットワークカメラのフルHD化が進む - 日経テクノロジーオンライン

車載カメラ(ドライブレコーダー)も「金のなる木」

車載カメラでもAmbarellaの採用が増えています。
FY2017Q3〜FY2018Q2の決算説明会の情報から要点をまとめました。

  • 売上の大半は市販ドライブレコーダー
  • 電子ミラーやサラウンドビュー用途でも実績あり
  • 割合は少ないがOEM純正でも採用されている
  • ヨーロッパでは交通事故を記録できるドライブレコーダー装着を義務化する法規制が検討されている
  • AEC-Q100やISO/TS16949の認証取得を検討している

ドライブレコーダーは大手自動車メーカーの純正部品としても採用されています。

  • メルセデス・ベンツの純正ドライブレコーダーで採用
  • トヨタのディーラーオプションのドライブレコーダーで採用
  • 上海汽車 Roewe ERX5の純正ドライブレコーダーで採用

ADASカメラはレッドオーシャン

Ambarellaは車載カメラを今後の注力分野として宣言しており、ADASや自動ブレーキ関連への進出も検討しています。
開発中の新型チップ「CV1」は車載ステレオカメラにも使えるそうです。

ADAS(先進運転支援システム)への参入に勝機はあるのでしょうか?
大手半導体メーカーがしのぎを削るレッドオーシャンに飛び込むことになります。
よほどの差別化要素がないと血を流すことになりそうです。

  • 安価な単眼式カメラならインテルに買収されたモービルアイ「EyeQ」が圧倒的シェア
  • 自動運転用カメラならNVIDIA「Drive PX」の一人勝ち
  • ADAS用ステレオカメラなら、スバルのアイサイトにも採用されているルネサス「R-car」、デンソーと連携する東芝「Visconti」、車載半導体大手のフリースケールやNXPを買収したQualcomm、ミリ波レーダー用チップも併せ持つTexas Instrumentsなど各社が大乱闘

コンピュータビジョンで巻き返しなるか?

Movidiusに対抗する鍵となるのがコンピュータビジョン技術の開発です。
Ambarella社は買収したVislab社の技術をもとに新型チップ「CV1」を開発中です。

これまでに発表されている情報はこんな感じです。

Vislab社とは

  • Vislab社はイタリア パルマ大学のAlberto Broggi教授らによるベンチャー企業
  • ステレオカメラを用いてターゲットを3次元で認識する技術「3DV Stereo System」は自動運転に応用可能
  • 2015年6月にAmbarella社が現金3000万ドルでVislab社を買収した


3DV Stereo Systemのデモ映像

CV1とは

  • コンピュータビジョンに最適化したプラットフォーム構築を目指し、2013年から開発開始
  • 画像認識アルゴリズムの最適化と高速化が特徴
  • Ambarella社のビデオ圧縮技術はCV1と相乗効果(シナジー)がある。特に低照度や明暗差の大きい場面でも高画質を保てる点
  • 低消費電力で高性能な画像認識が可能な「CV1」は、インテルやNVIDIAのようなCPUやGPUによる画像認識処理と同等性能をずっと低消費電力で実現できる
  • Vislab社のステレオカメラ画像認識機能を実装可能
  • 完全自律制御のドローンを実現可能
  • 4k 30fpsのステレオカメラ処理が可能。ADASカメラとして150m以上の長距離検知が可能
  • フルHD 30fpsのステレオカメラを4つ、同時処理可能。360度の周辺監視ができ、自律制御ドローンなどに向く。
  • 2017年Q4から主要顧客にCV1のサンプル提供開始予定
  • 2018年1月のCESで発表予定
  • 製造プロセスは10nm

Fermi Wang CEOによると、CV1がNVIDIAに負けないソリューションになると強い自信があるようです。
しかし現時点では絵に描いた餅。
ガンダムっぽく表現するなら
「CV1が量産の暁にはNVIDIAなぞあっという間に叩いてみせるわ」
とドズル・ザビが虚勢を張る感じでしょうか。
2018年CESまでのお楽しみです。

まとめ

Ambarellaのポジション

Ambarellaはビデオ圧縮用SoCという特定用途に特化した企業です。
それゆえ、GoProやDJIといった大口顧客の動向に株価が左右されやすい銘柄です。

アクションカメラで急成長してきましたが、いまではIPカメラやドライブレコーダーといった新しい市場の開拓にも成功しています。
粗利率は60%超、足元の業績も順調です。

Ambarellaの強みは独自アルゴリズムによる低消費電力かつ高精細なビデオ圧縮技術です。
しかしプロセッサの性能が日進月歩で進化していることもあり、Movidiusなど競合企業との差は縮まっているように思います。

ポストNVIDIAの可能性

そこでAmbarellaが新しいコア技術として注力しているのが画像認識技術です。

画像認識はNVIDIAがGPUを用いたディープラーニングで一躍注目を集めるようになった分野です。
ディープラーニングによって、人工知能(AI)の画像認識能力は人間を超える精度にまで達しました。

しかし、AIの実用化で最も大きな課題は消費電力です。
スーパーコンピュータならまだしも、自動車やスマホで使うにはバッテリーの制約があります。
NVIDIAによると、GPUは今後も飛躍的なワットパフォーマンスの向上が可能なため、消費電力の問題はいずれ解消するとアピールしています。

しかしプロセッサの性能向上というアプローチよりも、特定用途に特化するアプローチのほうが効率的であることは、皮肉にもNVIDIA自身が証明した事実です。

インテルのCPUはムーアの法則にそって進化し続けていてにもかかわらず、ディープラーニングの世界ではNVIDIAのGPUに追い抜かれました。
GPUがディープラーニングで重視される並列計算能力に特化したからです。

画像認識という特定用途に限ればGPUですらオーバースペックであり、もっと最適化する余地があると言われています。

この文脈で考えると、AmbarellaのCV1はとても理にかなった開発方針なのです。

あるばかの投資判断

足元の業績は堅調。
今回の株価下落で割安感あり。
先々に期待できるネタもある。
M&Aが活発な自動運転にも関連する独自技術を持っているので、モービルアイのように大手に買収されるかもしれない。
それどころか、CV1がうまく当たればポストNVIDIAも夢じゃない!

・・・と夢がふくらむ銘柄でございますが、
Ambarella株はそれなりに塩漬けしているので今回はナンピン見送り。
ノーマネーでフィニッシュです。

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