おばかさんよね。

なぜGoPro HERO6はSoCをAmbarellaからソシオネクストに変更したのか?

公開日:  更新日: 2017/10/26

gp1-socionext
GoProは長らくAmbarella社のSoCを採用してきましたが、
HERO6はGoPro独自の「GP1」チップに置き換わりました。
これは例えるなら、ぺこ&りゅーちぇるが離婚するくらいの衝撃です。

独自開発チップといえばソニーのBIONZ Xが有名ですが、GP1はGoProが自社設計したチップではありません。
ソシオネクストの「SC2000」をベースにGoPro独自仕様を盛り込んだカスタムチップです。

これまで蜜月関係にあったAmbarellaと別れ、ソシオネクストと手を結んだGoProの狙いとは何でしょうか?
その真相に迫ります。

表向きの理由

GoPro HERO6 Blackが「GP1」を採用した理由について、表向きはこんな風に説明されています。

完全に新しい GP1 チップを搭載した HERO6 Black は、
HERO5 の 2 倍のパフォーマンスと最高の画質を実現します。
撮影した映像を自動で GoPro アプリに転送して、素晴らしいビデオに変換します。
最先端の画像安定化機能により、驚くほど滑らかな映像を撮影できます。
スローモーションも高品質。
優れた低光量性能とナイト フォト モードで、
夜の撮影もおまかせ。
(GoPro公式サイトより)

たしかにHERO6はHERO5より格段に進化していて、強力な手ぶれ補正などGP1のおかげで実現している機能です。
GoPro HERO6とHERO5の違いを比較…これは良いものだ。 - おばかさんよね。

しかし、じつはAmbarellaの最新チップにはGP1と同じような機能が搭載されています。
それなのにAmbarellaと別れた本当の理由は何でしょうか?

本当の理由

GoProがAmbarelleと別れた本当の理由は、ずばり「中華アクションカム」対策だと推測しています。

中華アクションカムの急成長

俗に「中華アクションカム」と呼ばれる中国製GoProクローンの完成度はこの数年で飛躍的に向上しました。
中華アクションカムで使われているSoCを調べてみたところ、当初は台湾メーカーばかりでしたが、2015年以降、Ambarellaを採用するモデルが急増していることが分かりました。
特にGoPro HERO 4で採用されたA9/A12世代以降、中華アクションカムでもAmbarellaのSoCを使ったモデルが売れ筋となっています。
激安中華アクションカメラはSoCで選ぶ - おばかさんよね。

歴代HEROシリーズのSoC
GP1以外はすべてAmbarella SoCです。

モデル名 SoC 発売時の価格 発売時期
HD HERO A2S 300ドル 2010年1月
HD HERO2 A7LA50 300ドル 2011年10月
HD HERO3 A7-B0-RH 400ドル 2012年11月
HERO4 Black A9 500ドル 2014年10月
HERO5 Black A9SE7 500ドル 2016年10月
HERO6 Black GP1 500ドル 2016年10月

売れ筋中華アクションカムのSoC
「安かろう悪かろう」の印象がありますが、Xiaomiのように高級路線も人気になっています。

モデル名 SoC 発売時の価格 発売時期
SJ4000 Novatek 96650 約2万円 2014年頃
H9R Sunplus 6330M 約5000円 2015年頃
Xiaomi YI Ambarella A7LS 約8000円 2015年頃

Xiaomi Introduces A GoPro-Style Action Camera That Costs Just $64 | TechCrunch
[新製品]SJCAM SJ4000 (2014年11月29日)

『GoPro並』になった中華アクションカム

GoProと同じ部品を使えば似たような性能になるのは当たり前です。
ガジェットブログで「GoPro並の画質なのに驚愕のコスパ!」と中華アクションカムを絶賛するレビュー記事を見かけた人も多いかと思います。

我々ガジェットマニアにとっては嬉しいかぎりですが、GoProにとっては死活問題です。
最初は出来の悪いコピーキャットと侮っていたかもしれませんが、
Ambarella SoCを搭載した中華アクションカムがAmazonで横並びになると、もはやGoPro廉価モデルを脅かす存在になります。
実際、GoProはHERO3〜HERO4まではSilver editionや無印HEROなど廉価モデルをラインナップしていましたが、HERO5以降はハイエンドモデルのみとなっています。
アクションカメラ市場のローエンド需要を中華アクションカムに奪われたせいだと分析しています。

コピーキャットを始末しろ!

SoCにAmbarellaチップを使っているかぎり、中華アクションカムにコピーされる構造から逃げられません。
そこでGoPro独自チップの開発に踏み切ったというわけです。

肉を切らして骨を断つ?

GoProは中華アクションカムのコピー戦略を封じるため、オリジナルチップが欲しかった。
そしてバランスよりも特定機能を磨くことでオリジナリティを打ち出すことを狙った。
いわば「肉を切らして骨を断つ」作戦です。

これはおばかさん的仮説に過ぎませんが、こんな風に考えるとHERO6の仕様に合点がいきます。
一番分かりやすいのがバッテリー性能です。
HERO6 BlackはHERO5 Blackに比べて、条件によってバッテリー持ち時間が短くなっています。
Ambarellaの最新チップ「H2」なら製造プロセスが14nm FinFETに進化しているので、消費電力はHERO5同等以上に改善できたと思います。

バッテリー持ち時間の比較

HERO6 HERO5
SoC
チップ名称 GP1(Socionext SC2000ベース) Ambarella A9SE
製造プロセス 28nm
(TSMC)
28nm
プロセッサ Cortex-A7 650MHz 4コア Cortex-A9 800MHz 2コア
バッテリー持続時間(分)
バッテリー容量 1220mAh 4.7Wh
4k 30fps 95 90
1080p 240fps 60 非対応
1080p 120fps 65 情報なし
1080p 60fps 100 120
1080p 30fps 情報なし 150
720p 120fps 情報なし 140

※GoPro公称のバッテリー持ち時間
how-long-does-the-hero6-black-battery-last
How-Long-Does-the-HERO5-Black-Battery-Last

ソシオネクストとGoProの利害関係が一致

ソシオネクストもGoProと利害関係が一致していたと思われます。

ソシオネクストは富士通とパナソニックのシステムLSI事業を統合して2015年に発足した企業です。
ソシオネクストの業界ポジションを端的にいえば「日本の家電メーカーの下請けに甘んじていたため、技術力があってもマーケティング力が欠如。政府のお膳立てでスピンオフしたが、経営戦略が課題。」という正念場にある企業です。

特にカメラ向けASSP「Milbeaut」は厳しい状況にあったと思われます。
富士通はスマホ事業から撤退するという噂ですし、そもそもスマホ用SoCがGPUやISPと呼ばれる画像処理機能を取り込んでいるため、ASSPのニーズが激減しているはずです。
頼みの綱はデジカメ用途ですが、Milbeautが採用されていたリコーの360°全天球カメラ「Theta」は最新モデル「Theta V」からQualcommのスマホ用SoC「Snapdragon 625」に置き換わってしまいました。

そんなソシオネクストにとって、GoProカスタムチップは渡りの船のチャンスだったはずです。

参考記事

The Hero 6 and 'GP1' is GoPro's chance to grow again
「GP1を使わなかったらHERO6の価格はもっと高くなっていただろう」

富士通とパナの合弁、「半導体再浮上」に挑む | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
ネットワークSoCのトップ人材が流出:設立から1年半、迷走するソシオネクスト (1/3) - EE Times Japan

Ambarellaとソシオネクストの違い

Ambarellaの最新チップ「H2」とソシオネクストの最新チップ「SC2000」の比較表がこちらです。

メーカー Ambarella ソシオネクスト
SoC H2 Milbeaut SC2000
製造プロセス 14nm FinFET 28nm
CPU Cortex-A53 1.2GHz 4コア Cortex-A7 650MHz 4コア
動画エンコード H.265 4k 60fps H.265 4k 30fps
マルチカメラ 2カメラ 4カメラ
特徴 ・HDR @4k 60fps
・EIS @4k 30fps
・低消費電力(平均1.7W)
・EIS @4k 30fps
採用例 Xiaomi Yi 4k+ GoPro HERO6
発表時期 2017年1月 2017年7月

スペックは若干、Ambarellaがリードしているように見えますが、技術水準は大きくは変わらないでしょう。

もはや「H.265 4kリアルタイムエンコード対応!」といったハード性能の違いは差別化要素になりません。
アクションカメラの付加価値は、画質の調整や手ぶれ補正、ハイライトシーン抽出などソフトウェアに重心が移りつつあります。
結局のところ、Ambarellaやソシオネクストのような高性能SoCなら、どれを使っても同じです。
最終的なアクションカメラとしての出来栄えはカメラメーカーの腕次第です。

比較動画を紹介しましょう。

「H2」を採用したYi 4k+(plus)とGoPro HERO6 Blackの比較動画


空間光学式手ぶれ補正を搭載したSony FDR-X3000とGoPro HERO6 Blackの比較動画

Yi 4k+はHERO6と比較すると画質はイマイチ。
GoPro HERO6はソニーに匹敵する手ぶれ補正効果。
価格で選ぶならYi 4K+、手ブレ重視ならソニー、アプリやデザインなど総合的なオススメはGoProといった感じです。

まとめ

GoProがAmbarellaと別れ、ソシオネクストのカスタムチップを採用したことはアクションカメラ史に残る出来事だと思います。
これからアクションカメラ業界がどう変化していくのでしょうか?
次回、業界トレンドをまとめる予定です。

この10年あまりで色々な変化がありましたが、GoProの急成長ぶりはスゴいです。
なによりニック・ウッドマンCEOの人生楽しんでいるオーラが大好きです。
スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような天才でなくとも、アイデア次第で貴方にも手の届きそうでしょ??

2005年、フィルム式GoPro HEROを謙虚に売り込むニック・ウッドマン CEO


2017年、HERO6を自信満々で発表するニック・ウッドマン CEO