ブームが去ったクリスピークリームの新戦略は扇子商法とみた
コンビニ業界の新規参入でレッドオーシャンとなったドーナッツ市場。
上陸時のブームが去ったクリスピー・クリーム・ドーナツは日本で店舗閉鎖が相次いで話題となった。
クリスピークリームの日本法人によれば、首都圏に集約する新戦略だという。
そして目玉の新商品として発表したのが日本人の嗜好に合わせた新商品「クリーム・ブリュレ」
クリスピークリームの定番「オリジナル・クレーズド」は日本的感覚だと甘すぎるし、それがクリスピークリームのブランドイメージだったが、今回のクリームブリュレは”甘さ控えめのクリーム”だという。
ものは試しに買ってみたら、やっぱり甘すぎ。
クリームは甘さひかえめでも、ベースはオリジナルクレーズドだから当たり前か。
目次
ドーナッツ業界のポジショニング
ドーナッツ業界は100円台の価格で攻めるコンビニドーナッツ、
日本人にローカライズしたミスタードーナッツがあり、
クリスピークリームは200円台の高級感、自分へのご褒美的過剰な糖分
というポジショニングになっている。
甘くないドーナッツを出せばもっとマスに受けるのは百も承知で、
ミスドがいるから甘すぎ路線を崩せないのがクリスピー・クリームの苦しいところだと思う。
クリスピー・クリームの成長戦略
アンゾフのマトリクスで整理すると、クリスピー・クリームの日本法人が取りうる成長戦略は次の3つだろう。
・ドーナッツの深掘(既存技術×既存顧客)
・新ジャンルの商品を併売(新技術×既存顧客)
・ハンバーガーなど、ドーナッツ以外の新業態に転換(既存技術×新顧客)
ドーナッツ以外は禁じ手
クリスピー・クリーム・ドーナツの日本法人はロッテと経営コンサルのリヴァンプが設立しており、米国本社とはフランチャイズ契約になっている。したがってドーナッツの材料・厨房設備を活かして他業態に転換するわけにはいかない。というか、運営会社レベルではロッテリアやバーガーキングをすでに展開している。
新ジャンルはブランドが足かせ
ドーナッツが行き詰ったときに新ジャンルの商品を投入するのは定番の戦略だ。
ミスドはラーメンや点心も併売して客単価アップに成功した。
しかしクリスピークリームドーナッツはブランドイメージが重要なので、
同じ店舗で併売できる商品にはかなり制限がある。
儲かるからといってラーメンを出すのは米国本社が絶対にOKしないだろう。
古き良きアメリカンなイメージにあうコーヒー、カップケーキ、パンケーキ、デニッシュ、プリッツェル、ソーセージあたりは相性も悪くなさそう。
しかしレストラン・喫茶店寄りにシフトするほど、スターバックスなど手強い競合が増えるので、
足元のドーナッツが逆風のときに挑戦するのは勇気が必要だ。
ドーナッツ深掘り以外の可能性
日本法人の立場を考えると、ドーナッツ市場を深掘りするしかやりようがない、という事情も見えてくる。ただ、米国本社と日本法人という関係で新ジャンルの独自製品に成功したケースがないわけではない。
タッパウェアの実例
食品密閉容器のタッパウェアは主婦を活用した特殊な販売手法で日本展開していた。
ちょっと値が張り、アメリカンな商品イメージが売り。そしてジップロックなど安価な競合製品で存続が危うくなっていたという状況はクリスピー・クリーム・ドーナツと共通点も多い。
そこで密閉性が高いという技術的コア・コンピタンスを活かし、衣装ケースや浄水器など新商品の開発に着手する。アフィリエイターの主婦を活用した販売チャネルとの相性も抜群でタッパウェアの日本法人は売上V字回復に成功したそうだ。
このケースについて詳しくは「ゼロからめざせ!30代CEO(著:谷貝 淳)」を参照されたし。日本だけの特殊事情を米国本社に納得させるのは非常に大変そうだが、さすが元電通、元マッキンゼーのエリート。その他のエピソードも面白い。
扇子商法
大阪・船場に伝わる経営の肝に扇子の教えがある。
景気が良いときは手広く展開し、落ち目になったらすぐに店じまいする。
扇子のように素早く広げたり閉じたりできることが理想だという。
外食のようにトレンドに左右される客商売では特に重要。
クリスピー・クリーム・ドーナツ日本法人の店舗閉鎖のタイミングは機を見るに敏で、
扇子商法のお手本のようなケースだと思う。