モービルアイは失速か?エヌビディアと比較すると技術力は周回遅れ
日産セレナはじめ、自動ブレーキで圧倒的な採用実績を誇るモービルアイだが、今後はシェア低下が懸念されている。
モービルアイ(Mobileye,MBLY)にかわって大躍進しているのがエヌビディア(nvidia, NVDA)。
モービルアイの強みとシェア低下の理由、そしてエヌビディアが急成長している理由を解説しよう。
目次
モービルアイの強み
モービルアイの最大の強みは安い単眼カメラで距離検知を可能にした独自の画像認識技術。
通常、カメラ画像から車間距離を測るにはスバルのアイサイトのようにステレオカメラ(2台のカメラ)が必要になる。
どデカいステレオカメラはドライバーに目障りだし、なによりコストがかかるのがネック。自動ブレーキごときでステレオカメラを採用するのは費用対効果が悪いため、モービルアイの単眼カメラによるADAS技術は引っ張りだことなった。
モービルアイはイスラエルの新興企業にもかかわらず、車載半導体大手のSTマイクロをドアオープナーとして巧みに利用し、2007年以降、BMWやGM、テスラ、日産など数々の自動車メーカーで採用され、ADASカメラのデファクトスタンダードの地位を獲得した。
ADASから自動運転へ
しかし近頃、モービルアイのシェアをがしがしと侵食しているのがエヌビディア。
エヌビディアの強みは、ディープラーニング(深層学習)の活用で一足飛びに完全自動運転技術を完成させたこと。
たしかにモービルアイの「EyeQシリーズ」よりエヌビディアの「Drive PX2(Tegra)」はコストが高い。しかしADAS(先進運転アシストシステム)と自動運転ではドライバー目線の費用対効果で許容されるコストが桁違いに跳ね上がる。
自動ブレーキや車線変更くらいの中途半端なADASなら不要でも、タクシーさながらに完全自動運転できる装備なら20万円超でも欲しいと思うドライバーは多いはずだ。
モービルアイからエヌビディアに乗り換える自動車メーカー
モービルアイを採用した自動車メーカーがエヌビディアに乗り換える動きもすでに起きている。
代表例がアウディとテスラ。
アウディは2017年第2四半期にモービルアイを採用した車両を投入予定。しかし一方で、自動運転車はエヌビディアと提携すると2017年1月に発表している。
自動運転技術を先駆けて導入したテスラは、HW1と呼ぶ第一世代でモービルアイを採用したが、2016年10月にエヌビディアとの提携を発表し、採用部品をHW2と呼ぶ第2世代、中身はエヌビディアのDRIVE PX2、に完全切替した。
自動車業界きってのアーリーアダプターであるテスラとアウディがそろって乗り換えたことから分かるように、ADAS時代はモービルアイを使うが、完全自動運転ならエヌビディアの技術が先行していることが明らかなのだ。
エヌビディアのDRIVE PX2の快進撃はとどまるところをしらず、アウディとテスラ以外にも多数の自動車メーカー、部品メーカーに採用予定だ。
エヌビディアの自動運転のスゴさは下記記事にまとめている。
NVIDIAの自動運転技術はなにがスゴいのか - おばかさんよね
GPUは自動運転運転に不向き?
自動運転時代にエヌビディアが独走するかというと、否定的な意見を持つ人もいる。
よく聞くのはGPUは消費電力が高いので車載に向かない、という意見だ。日系自動車メーカーなど保守的な立場ほど否定的な向きが多いようだ。
これって正直、言い訳だと思う。脆弱な鉛バッテリーにこだわらず、電気自動車のように強力なリチウムイオンバッテリーを搭載したら済む話だから。
それにエヌビディアのGPUは世代が進むごとに指数関数的に消費電力性能が向上している。
そしてなにより、現時点で人間を超える認識率を達成した完全自動運転機能を提供できるのはエヌビディアの他にない。
なぜなら完全自動運転のアルゴリズム開発にGPUは必要不可欠だからだ。求められるのは膨大な画像処理と深層学習の並列処理。これはまさにエヌビディアのGPUが得意とするスイートスポットだ。
End to End DNNとは?
エヌビディアの完全自動運転はEnd to EndのDNN(Deep Neural Network)によって実現している。
End to EndのDNNとは、ざっくりいえば、車載カメラの映像という入力から人工知能(AI)が車の操作(アクセル、ブレーキ、ハンドルなど)を出力するシステムのこと。
映像から学習するのでグラフィック性能が重要なのはいうまでもない。そして人工知能の学習スピードは並列処理技術による高速化が鍵となるが、これもエヌビディアは自社GPUのアーキテクチャに最適化したソフトウェアを持っている。
そんなわけで自動運転はエヌビディアの横綱相撲となっている。
DNNに否定的だったモービルアイ
モービルアイは自動運転にDNNは向かないという考えを示していた。モービルアイの技術の生みの親であるアムノン・シャシュ(Amnon Shashua)博士の講演映像を貼り付けておく。
End to End DNNでは90%正しい判断ができても、極稀な例外ケースに対応できず、しかもアルゴリズムがブラックボックスなので自動運転には向かいないという主張だ。理論的な正当性はさておき、エヌビディアがDNNで自動運転を実現してしまったのだから、さあ大変。
最近の講演ではモービルアイもDNNによる技術開発に取りんでいることを発表している。
分かりづらい状況でもDNNでフリースペース認識できるデモが紹介されているが、エヌビディアに比べて周回遅れの印象。
モービルアイがインテルと提携する理由
モービルアイも深層学習アルゴリズムに開発着手したとはいえ、エヌビディアの強力なGPUと並列処理技術に対し、めちゃくちゃ焦りを感じていると思う。
チップ提携先を車載半導体大手のSTマイクロからCPU大手のインテルに切り替えた理由もエヌビディアに対抗するためだと思う。
前述の通り、深層学習のパフォーマンスはプロセッサの演算能力がキーポイントとなる。エヌビディアに対抗しうる高性能プロセッサメーカーといえば、もちろんインテルが最有力。
モービルアイはBMW、インテルと提携して約40台の自動運転車を公道で走らせると発表している。
モービルアイのEyeQシリーズは、2018年サンプル出荷予定の第五世代品からインテルのチップになると言われている。
新規参入で競争激化
エヌビディア、モービルアイ以外のメーカーも続々と新規参入を狙っている。
クアルコムは車載向けプロセッサ Snapdragon 820a でDSPコアによる深層学習機能を提供している。中国 ZongMu社はSnapdragon 820aを使った深層学習による画像認識のデモを発表している。
ハンガリーのAImotive社はステレオカメラで深層学習したアルゴリズムを安価な単眼カメラで実行させるというアプローチを提案している。開発段階のみ深層学習の教師データとして高精度なステレオカメラを使い、量産段階では単眼カメラの映像からターゲットの認識や距離測定が実現できるという。
AImotiveは2018年までの実用化を目指している。もし実現したら、安価な単眼カメラで距離測定できるというモービルアイ独自の強みすら危うくなる。
その他、デンソーも東芝「Visconti」チップを使って低消費電力DNNハードウェアを開発すると発表している。
高精度地図用のデータ圧縮に期待
単眼カメラによる距離検出に続く、モービルアイの新たな武器として期待されるのが高精度地図用のデータ圧縮技術「REM(Road Experience Management、ロード・エクスペリエンス・マネジメント)」。
REMが画期的なのは以下の点。
- 完全自動運転には高精度地図が必要不可欠。機能安全規格で要求されるセンサの冗長性を地図が担保できるから
- 高精度地図作成で一般的なLiDARではリアルタイムなアップデートができない
- 一方、REM技術を使うと専用の開発車両が不要。モービルアイのカメラを搭載したコネクテッドカーから日々、リアルタイムの地図データを収集できる
- モービルアイのREMはカメラから地図情報を分析し、非常に小さいデータに圧縮できる技術
- 平均10KB/km未満のデータに圧縮できるので通信コストも安い
- モービルアイはリアルタイム地図のプラットフォームを提供し、自動車メーカーが相互利用できる構想。
GMは「OnStar」というテレマティクス・サービスと組み合わせて活用していく方針だ。その他、日産やVWもREM採用を発表している。
また欧州の地図情報大手 HERE社もモービルアイを提携を発表している。
REMは高精度地図やコネクテッドカーといった新しい成長領域のキラーアプリとなるポテンシャルを秘めている。
自動運転車のカギを握るイスラエルのヒーロー (2ページ目):日経ビジネスオンライン
まとめ
モービルアイはADASカメラのデファクトスタンダードだが、その地位は非常に危うくなっている。主な理由は2つ。
ひとつはエヌビディアが車載カメラで自動運転機能を実現してしまったこと。モービルアイは単眼カメラでコスパの良いADAS機能が売りだったが、自動運転の実現で早くも時代遅れの技術になりかけている。
もうひとつはADASカメラの競合増加。モービルアイの先行者利益が薄れつつある。
モービルアイ復活の鍵を握る武器は3つ。1つめはインテルとの協業。2つめは天才科学者アムノン博士が新しい画期的技術を再び発明できるか。3つめは地図圧縮技術「REM」。
もっともモービルアイがこのまま失速したとしても、有力特許を持っており市場価値の高い有力企業であることは間違いなさそう。いわば自動運転におけるモトローラ的存在。株価割安なら投資しておくのもよさそうだ。