FOWLPで儲ける企業を予想してみた
QualcommやAppleが採用したことで、半導体のFanOutパッケージの普及が大きく進むと予想される。
注目の新技術 FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)でガッチリ儲ける企業を予想してみる。
目次
FOWLPは何がすごい?
「ムーアの法則」を牽引してきたプロセス微細化が限界に達しつつあるが、FOWLPはそのブレークスルーとなる画期的な技術。
いまやプロセス微細化が進んでチップが小さくなりすぎたことで、ICパッケージが小型化のボトルネックになっている。とくに大きな課題は「ピン数」と「熱問題」。
- 端子が足りない
- チップが小さくなると端子数も減るため。
- 発熱問題
- チップが小さくなると冷却性能も劣化するため。
この課題を解決するため、複数のチップをひとつの大きなパッケージにまとめるPoP(Package on Package)というパッケージ技術が現在の主流。
しかしPoPは「コストが高い」、「パッケージが分厚くなる」、「余計な配線で性能が劣化する」という欠点がある。
そこでPoPを置き換える新技術がFOWLP。主なメリットは以下。
- 配線が短くできる
- サブストレート(PoP基板)が不要
- 端子数を増やせる
- チップより外に端子を置けるからファンアウトと呼ぶ
- 端子を扇に見立ててファンイン、ファンアウトと呼んでいる
- もちろん、普通のWLPはファンイン型
- 放熱性能が向上
- 配線が短くなるため
- 端子数が増やせるため
- (とくに高周波の)性能向上
- 配線が短くなるため
- 冷却性能が上がるため
- PoPよりコストが安い
- サブストレートが不要でシンプルな構造だから
- 本当に安くできるかは歩留まり次第
スマホやADASで採用拡大
半導体市場の2大成長ドライバーであるスマートフォンと車載の両用途でFOWLPは重要技術となる。
FOWLPの技術的メリットが付加価値に直結するからだ。
PoPからFOWLPに置き換えることでスマートフォンはさらなる薄型化、小型化、高性能化が実現できる。
また、ミリ波レーダーやLiDARといったADAS分野でもFOWLPは高性能化・高信頼性・小型化につながる。
量産実績で先行するTSMC
台湾 TSMC社はAppleのA10プロセッサを製造しており、量産実績でリードしている。
iPhone7で採用されたTSMCのInFO技術は半導体の新潮流となるか? - おばかさんよね
TSMCのInFOはコストが高すぎるといわれており、ASEなど競合が価格勝負してきたときに対抗できるかが不安要素。
以下、その他の豆知識。
- InFO(Integrated Fan Out)と呼ぶTSMC独自のファンアウトパッケージ
- Qualcommから買収した台湾 龍潭工場(Advanced Backend Fab 3)にInFO製造ラインがある
- IPhone7のA10に加え、iPhone8のA11もInFO採用との噂
- MediatekやHisilicon、Xilinxも採用検討していると噂
TSMC Reportedly Lands Exclusive Deal for Apple’s 2017 A11 Chip Orders - Patently Apple
Xilinx、MediaTek、HiSiliconもInFO検討の噂
Qualcomm CODECを受注したASE
台湾 ASE(日月光半導体製造)も2016年にFOWLPの量産開始したと発表した。
工商時報によるとASEのFOWLPはQualcommとHisense(ハイセンス、海信集団)で採用されているという。
Snapdragonの分解レポートによると、SoCは日本の新光電気工業のMCePが採用されている。消去法からASEのFOWLPはQualcomm aqstic codecで採用されていると予想。
Qualcomm WCD9335 Fan-Out WLP Audio Codec 2016 teardown reverse costin…
WCD9335の分解レポート
Qualcomm SoCを受注した新光電工
Snapdragon 810(MSM8994)、820(MSM8996)では新光電気工業のMCePが採用されている。
Snapdragon 835世代でもMCePが採用継続する可能性が高いが、チップを製造しているサムスンもFOWLPを開発しているという噂があり、油断できない。
トランプ円安は新光にとって追い風となるだろうが、Snapdragon一本足はリスクが高い。
Qualcomm以外での採用や他社へのライセンス供与など出口戦略が求められるだろう。
新光電気工業はインテルのサプライヤーとして有名だが、インテルのスマホ向けベースバンドチップはFOWLPの元祖であるドイツ Infineon社のeWLPを採用している。インテルのベースバンドチップはもともとInfineon社から事業買収しており、ここを崩すのは難しそう。
電子デバイス産業新聞によれば新光電工は米 AmkorにMCePをライセンス供与しているそうだが、正式発表はない。それにAmkorはSLIM(Silicon Less Integrated Module)という独自のFOWLP技術を持っている。
さらばPoP! 百花繚乱の半導体パッケージ | 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
QualcommはすでにMCePを採用した製品の量産を行っており、新光電気のほか、同技術のライセンス先である米Amkor Technologyでも量産をスタートさせているもようだ。 …
Samsung’s Galaxy S7 Processor Packages: Qualcomm & Shinko’s MCeP vs. …
MSM8996はMCePを採用
元祖FOWLPのInfineon
Infineon社はeWLB(embedded Wafer Level BGA )と呼ぶ独自技術を開発したFOWLPの先駆け。
eWLBはインテルのベースバンドチップやInfineonの車載レーダーチップで採用されている。
FOWLP市場が本格的に立ち上がればeWLBのライセンス収入が期待される。
InfineonのeWLBは台湾 ASE、OSAT、シンガポール StatsChip PAC等にライセンス供与されているという。
Snapdragonの採用例
Snapdragon 820ではSoCとCODECでFOWLPが採用されている。
SoCは新光電工のMCeP、CODECは消去法でASEのFOWLP。
iPhone7の採用例
IPhone7のA10はTSMCのFOWLP(InFO)が採用されている。
韓国 etnewsによるとAMS(Antenna Switching Module)でFOWLP型の日本製ICが採用される噂があったが、結局、使われることはなかった。
대한민국 IT포털의 중심! 이티뉴스
AMSで採用の噂(英文)
Apple iPhone 7 Teardown | Chipworks
iPhone7の分解レポート
結論
世界有数の微細プロセスに加えてFOWLP技術もあるTSMCが技術面では一番競争力がありそう。ただしコストが課題。
サムスンはプロセス微細化で先行するが、FOWLPを持っていないのが弱点。サムスンが独自開発なりライセンスなりでFOWLP実用化できたらTSMCを巻き返せるかもしれない。
Qualcomm御用達の新光電工はスマホ関連のイメージが薄いので投機が狙えそう。株価は上昇トレンド。ただしSnapdragon 一本足と思われ、将来の失注リスクが不安材料。
結局、どこがFOWLPで主導権を握るのかはまだ読めないし、ビジネス的なインパクトも未知数。
風が吹けば桶屋が儲かる方式でApplied Materialsなど装置メーカーの事業環境が改善する可能性あり。
また、FOWLPで損する企業も明確。それはPoPでサブストレートを供給していたメーカー。アップル銘柄のイビデンはFCCSP基板事業が大きく縮小する可能性をコメントしている。
続・FOWLPの衝撃 | 電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
パッケージ基板大手のイビデンの今後の事業見通しだ。同社はApple向けにFCCSP向けパッケージ基板を供給しており、FCCSP売り上げの約6~7割がApple向けと見られている。 …