iPhone7で採用されたTSMCのInFO技術は半導体の新潮流となるか?
iPhone7のCPU「A10 Fusion」はチップが従来よりも極めて薄くなった。
これはチップ製造元のTSMC社がInFO(Integrated Fan-Out)と呼ぶ技術を採用したから。
InFO技術を深掘りすると半導体業界のトレンドが見えてくる。
目次
InFOとは?
InFOとは一般的にFO-WLP(Fan-Out Wafer Level Package)と呼ばれる半導体のパッケージ技術。
iPhone6sのCPU「A9」のようなCSP(Chip Size Package)との違いは、サブストレートと呼ばれる基板を使っていないこと。
巻き寿司で例えるなら、CSPは普通の巻き寿司、FOWLPはシャリがないネタだけの巻き寿司。
サブストレートを使わないことで
・パッケージの厚みが薄くなる
・材料費が安くなる
・発熱が少なくなる
というメリットが生まれる。
InFOでiPhone7の部品レイアウトが変わった
iPhone7のA10でInFO技術がもたらした最大のベネフィットは発熱とスペースの問題を同時に解決したことだろう。
これまでのiPhoneでは熱問題の対策としてアプリケーションプロセッサとベースバンドプロセッサを離れた位置にレイアウトしていた。iPhone7では薄くなったA10に放熱シールを取り付けて冷却性能を高めることで、アプリケーションプロセッサの近くにベースバンドプロセッサを置かれている。こうすることで、余ったスペースに新しい部品(謎のFPGAなど)が置けるようになった。
A10をTSMCが独占受注できた理由はInFO
A9ではサムスンとTSMCの2社供給だったが、
InFO技術はTSMCにA10チップの独占受注をもたらす強力な差別化技術となった。
もっとも、同時並行的にサムスンはスマホ向けチップ最王手のQualcommのSnapdragon 820/830を逆にTSMCから奪っており、半導体製造のビジネス上でどちらが真の勝者かというと議論が別れるが。
FOWLP市場でTSMCの競争優位性は一時的か
FOWLPの歴史
InFOはTSMC独自の画期的な技術だが、同じような技術は競合も持っている。
InFOを含めたFOWLP技術はとうの昔、2008年にドイツのInfineon社が開発していた。
その名もeWLB(embedded wafer-level ball grid array)。
Infineonの携帯電話事業を買収したIntelのベースバンドプロセッサでeWLBは採用されたが、歩留まりが悪いので普及しなかった。
FOWLPの特許
InfineonのほかにもFreescaleやAmkorもFOWLP技術の特許を持っており、NepesやASEなど半導体製造企業にライセンス供与している。
TSMCの競争優位性
どこもかしこも特許を持っており、FOWLPは作るだけなら誰でもできる状態。
競争力を左右するポイントは収率にあるだろう。
現時点ではTSMCは他社より一歩リードしているのは間違いない。
A10独占受注で量産ノウハウを蓄積できるし、MediaTekやHisilliconといった大口顧客も興味を持っているようだ。
ゆえにTSMCが向うところ敵なしかというと、そうじゃない。
スマホのデファクトスタンダード Qualcomm SnapdragonをTSMCは失注している。
FOWLPの有力特許を持っているとされるFreescaleはNXPに買収されており、そのNXPが今後はQualcommに買収されている。
部材調達の戦略上、サプライチェーンのイニシアチブを握るためにQualcommがサムスンに安価にFOWLP技術をライセンスさせるというシナリオは多いにありえるだろう。
またIntelも意外な伏兵だ。自社開発のモバイルSoCから撤退したが、スマホ市場を諦めたわけではない。5Gの先回りやiPhoneのA11製造受託など噂が絶えない。IntelといえばCPUを自社で大量生産しているわけで、パッケージ技術もノウハウを培っているはず。Atomは電力効率でSnapdragonに勝てなかったが、パッケージ技術は用途を問わず横展開しやすいので旧InfineonのeWLBを武器に再参入してくるかもしれない。