おばかさんよね。

仮想通貨「VACUS」のからくりを読み解く

タグ:
公開日:  更新日: 2018/02/10

ICO(独自の仮想通貨による資金調達)が流行っています。
中国では「馬鹿が多過ぎてICOが足りない」なんて言われているそうです。

Twitterで香ばしいICO案件を発見したのでご紹介します。
個人運営のWebサービスに紐づいた独自トークン「VACUS(バッカス)」です。
別名「マツダ(仮)」という名称でTwitterの一部投資クラスタでティーザー広告的に盛り上がった投資案件です。

VACUSとは?

VACUSの特徴は次の3点です。
おばかさんの射幸心を煽るシステム設計となっています。

  1. 「Avacus」というWebサービスの手数料収入の75%が「VACUS」保有者に配当される。
  2. 「Avacus」とはAmazonの商品をビットコインで購入できるサービス。(そう、purse.ioのパクリです!)
  3. 「VACUS」は個人によるICOの基軸通貨になる予定。「VACUS」保有者は配当収入に加えて、値上がりによる売却益も期待できる。

VACUSはなぜ儲からないのか?

常識的に考えて、そんなに儲かるわけがありませんが、
TwitterもGoogleもVACUSを買い煽る情報しか見つかりません。
VACUSのカラクリを種明かししてみましょう。

投資収益率(ROI)が低い

VACUSの期待収益率は低いです。

「Avacusの売上75%が配当金としてVACUS保有者に分配される」
という特徴から、
HYIP(高収益投資)っぽい印象を受けますが、これは誤解です。
私の試算では、VACUSが0.2円だとしても期待収益率は2%しかありません。

手数料収入の試算

フェルミ推定でざっくり計算してみました。

このサービスの利用者目線(需要サイド)で考えます。
日本のアマゾン売上高は年間1兆円です。
このうち個人利用が7割、納期遅くなっても1割引で購入したい物が5%、ビットコイン決済の選択率が1割とすると、
このサービスのターゲット市場は35億円です。

市場シェア1割を獲得できたと仮定すると、
Avacusの年間取引額は3〜4億円です。
現時点でAvacusの手数料率は未定ですが、競合のpurse.ioと同様に約2%だとすると、
手数料収入は約600万円という推計になります。

次に供給サイドから検算してみます。
まずpurse.ioの年間取引額(非公開)を見積もりましょう。
purse.ioの2015年Amazonプライムデーの売上は2万4千ドルでした。
どんぶり勘定でプライムデーは通常の2倍だとすると、
purse.ioの2015年の年間取引額は
2万4千ドル x 365日 ÷ 2 ≒ 年間400万ドル(約4億円)です。
日本市場が3割とすると1.2億円です。
2015年と比較してビットコインの認知度もアマゾンの売上も伸びているので、
Avacusの年間取引額3〜4億円という推計は妥当なラインだと言えます。

期待収益率の計算

手数料収入が600万円とすると、
その75%である総額450万円がVACUS保有者への配当金になります。

VACUSは10億単位ありますから、
150万円 ÷ 10億VACUS = 0.0045円が1VACUSあたりの年間配当の期待値です。

ICO時の売り出し価格は1VACUS=0.2円でした。
今は10円台まで値上がりしているそうですが、
0.2円で購入したとしても
0.0045円 ÷ 0.2円 = 年利2.25%
にしかなりません。
ICOのリスクを考慮すると年利5〜10%くらいは欲しいです。
一言でいうと「ハイリスク・ローリターン」です。

売上拡大が有り得ないビジネスモデル

いわゆる「スケールしない」ビジネスモデルです。
Avacusの年間取引額が10億、100億と売上拡大することは、ビジネスモデル上、無理があります。

Avacusがpurse.ioをパクっているように、誰でも真似しやすいWebサービスです。
ビットコイン利用者が増えてターゲット市場が拡大したとしても、その分、競合が増えます。
スイッチングコストもゼロに等しいので、手数料が安い競合が参入してきたら、ユーザーがどっと流れていきます。

なにより痛いのが、ビットコインが普及すればするほど、割引率が悪くなる点です。
ZaifなりbitFlyerなりの取引所で簡単に購入できるのに、あえて10〜20%も割高なビットコインを買う人はいません。
価格変動が激しいビットコインを決済通貨として使うリスク、割引率が10%そこそこ、買い手が現れるまで長ければ1〜2週間待つ・・・
こうなると、ユーザーメリットがほとんどありません。

インチキくさい

「VACUS」は独自の取引所をつくり、新しいサービスとのトークン交換を可能にするという計画もアピールしていて、これが絶妙にインチキくさいです。
もちろん、良い意味で。

「VACUSの価値はAvacusの配当だけじゃないよ!画期的なサムシングだよ!」
ということをアピールしていますが、肝心の新サービスは未定です。
それなのに絶賛するtweetが多くて、とても面白いです。
「馬鹿が多過ぎてICOが足りない」とはよく言ったものです。

VACUSと同じスキームで新サービス、新トークンを予定している、というだけです。
ICOは誰でも簡単にできるので、独自の取引所をつくる意味はないと思います。
しいて言えば顧客ロイヤリティ。
射幸心が強いユーザ層をつなぎとめる餌でしょうか。

感想

昔から「馬鹿とハサミは使いよう」と申します。
英語でそろばんを意味するabacusに由来する「Avacus」というサービス名。
そしてAvacusから「あたま(先頭文字)」を取ったら「VACUS(バッカス)」という独自トークンのネーミングは洒落が効いていると思いました。

VACUSの収益性はともかく、AvacusのサービスはAmazonヘビーユーザとしては進展が楽しみです。
purse.ioは割引率がイマイチで利用しなくなりましたが、Avacusのインチキくささで賑わうことを期待します。
Avacusは12/26にサービス開始予定だそうです。

Avacusのサービスは間接的にはクレジットカードのショッピング枠でビットコインを買うことになるので、「カードで現金化」的な危うさがあり、コンプライアンス重視の企業が手を出しづらい分野です。
コンプラどこ吹く風、個人運営のAvacusがガシガシと認知度が広めて、盛り上がってきたらDMMあたりがドカンと参入。
そんな展開がきたらフィンテック業界が揺れ動きますね!