テスラの株価予想。赤字決算でも買う理由は?
テスラは2016年第4四半期(Q4)決算を2月22日に発表する。株価見通しを予想してみる。
テスラとは
- イーロン・マスクが2003年に操業した電気自動車(EV)のベンチャー
- 2010年、NASDAQ上場
- ティッカー:TSLA
- 2017年2月1日、社名を「テスラ・モーターズ(Tesla Motors, Inc)」から「テスラ(Tesla, Inc)」に変更
事業ドメイン
テスラの事業ドメインは以下の3つ。
- 電気自動車(EV)の製造販売
- リチウムイオン電池を応用した蓄電システムの製造販売
- ソーラーパネル製造および太陽光発電システムの販売
電気自動車
EVはテスラの主軸事業。
テスラの車種ラインナップは以下の通り。
- Roadster(ロードスター)
- Model S(モデルS)
- Model X(モデルX)
- Model 3(モデル3)
ロードスター
- 価格:約1,300万円~
- 発売時期:2008年~2012年
- コードネーム:DarkStar(ダークスター)
- シャーシはロータス エリーゼを流用
- EV用リチウムイオン電池は角型が一般的だが、ノートPCなど家電で一般的な円筒形18650サイズ(直径18mm x 長さ650mm)を採用
- バッテリーの正極材はコバルト酸リチウム系(LiCoO2)
- バッテリーパックはESS(Energy Storage System)と呼ばれている
- 18650電池を69本並列したブリック
- ブリックを9セル並列したシート
- シートを11枚直列にした構造
- 合計6831本(69x9x11)の18650電池を搭載
モデルS
- 価格:約800万円~(2016年に700万円の低価格版を発売)
- 発売時期:2012年~現在
- コードネーム:WhiteStar(ホワイトスター)
- シャーシをEV専用に新規開発
- バッテリーはロードスターと同じ18650サイズ
- バッテリーの正極材はニッケル酸リチウム(LiNiO2)
- 自動運転システム「オートパイロット(Autopilot)」を搭載したモデルSの死亡事故をきっかけに、モービルアイが提供するHW1からエヌビディアのHW2に移行した。
モデルX
- 価格:約900万円~(2016年に800万の廉価版を発売)
- 発売時期:2015年~現在
- バッテリーはモデルSと同じ18650サイズ、ニッケル酸リチウム
- オートパイロットはHW1とHW2のバージョンが存在
モデル3
- 価格:約400万円(予定)
- 発売時期:2017年下旬(予定)
- バッテリーはギガファクトリーで生産する最新仕様の大容量「2170」サイズ、三元系(NCM)
蓄電システム
- 家庭用蓄電池「パワーウォール2(Powerwall 2)」
- 産業用蓄電システム「パワーパック(Powerpack)」
ソーラーパネル
- 住宅用太陽光発電システムのソーラーシティ社を吸収合併予定
- パナソニックと太陽電池事業でも提携
シナリオ予想
これからテスラが展開するビジネスストーリーをシミュレーションしてみた。
SWOT分析
テスラの特徴とビジネス環境をSWOT分析で整理する。
強み
- イーロン・マスクのカリスマ性と「世界を変える」というビジョンで信者を惹きつける
- EVに特化し、他の自動車メーカーより性能・コストの両面で差別化
- リチウムイオン電池をギガファクトリーで内製
- ZEV規制でクレジット収益
- nvidiaの自動運転システムをいち早く採用
- 保守的な自動車産業で際立つシリコンバレー流のスピード感
弱み
- 資金繰りのリスク
- 営業利益・キャッシュフローともに赤字
- 大幅赤字のソーラーシティ社を買収
-本当に大衆車を量産できるのか、技術力が未知数
機会
テスラにとって追い風となる外部環境は以下。
- 環境規制(ZEV規制)
- 最も先進的なのがカリフォルニア州
- PM2.5など大気汚染が中国も導入予定
- 米国や先進各国でZEV規制が進む傾向
- スマートグリッド化
- ソーラーパネル、蓄電システム、EVの急速充電器などインフラ整備を後押し
- 自動車部品業界は系列解体、メガサプライヤーの時代へ
- メガサプライヤーのモジュール採用で車両開発のハードルが大きく下がる
- 大手メーカーは既存プラットフォームから乗り移りづらい。いわゆるサンクコスト効果。
- トランプ政権は米国内の雇用を促進。メキシコには国境税を課す方針。
- 大手メーカーはメキシコに工場投資してきた
- テスラはMade in USA推し。ギガファクトリーやNUMMI(旧・GMとトヨタの合弁工場)など。
脅威
テスラにとって逆風となる外部環境は以下。
- トランプ政権は環境規制に否定的
- 石油メジャー・自動車業界は急進的な環境規制に反対
- 中国政府は電気自動車の内製に野心的
- 大手自動車メーカーも電気自動車に本格参入予定
- ソーラーパネルに続きリチウムイオン電池も過剰供給の危険
- 中国はEVバブルの予兆
アップサイド
以上のSWOT分析をふまえると、追い風の外部環境になるとテスラは莫大な利益を得られる体制となっていることが分かる。
ふつうは外部環境に左右されないようにリスクヘッジするが、イーロン・マスクは「クリーンエネルギーで世界を変える」というゴールに一点張り。
ダウンサイド
逆にいえばテスラの経営は一種のギャンブル。外部環境の逆風にめちゃくちゃ脆弱。
大手自動車メーカーが本気になって、モデル3と同等性能・価格のEVを早期投入されたら太刀打ちできない。
あるいは、車載用リチウムイオン電池も太陽電池の二の舞いとなり、中国の過剰供給で市場価格が下落した場合、ギガファクトリーで電池を内製するテスラは、さながらシャープ状態となるだろう。
しかし、いまのところ世界のトレンドはテスラに追い風だ。
- トランプ政権で環境規制は後退気味。しかしテスラは米国で製造する自動車の象徴的存在であり、保護主義のトランプが見捨てるとは思えない。
- 大手自動車メーカーはEV開発に本格シフトできない。ガソリン車のほうが儲かるから。
- 車載用リチウムイオン電池の需給バランス、市場価格が急激に変化する可能性は高くない。
- EVのキーパーツであり参入障壁が格段に高いため
- 電子部品事業(液晶パネル・フラッシュメモリ・太陽電池など)における韓国・中国企業の勝ちパターンであるダンピング戦略の効果は低いはず
- ここで重要なのはコモディティ化のスピード。
事業見通し
というわけでテスラの事業見通しをまとめると、こんな感じ。
- テスラの命運は環境規制の動向が握っている
- テスラの経営は綱渡り状態で逆風が吹けば瀕死になりかねないが、世の中のトレンドは順風
「当たれば大きいゾ」という期待は投資家の射幸心をあおる。しかも「環境問題に貢献している」という満足感も得られる。テスラ株は魅力はこのあたりにあるのだろう。
ファンダメンタルズ
2015年Q3から2016年Q3までの四半期決算の推移を分析する。
売上・利益・キャッシュフロー
テスラの売上は車両販売台数にほぼ比例している。
いまのところ販売台数は好調に推移しているが営業利益、フリーキャッシュフローともに赤字続き。
そしてカリフォルニア州のZEVクレジット等、排出権取引もテスラの重要な収入源になっている。排出権収入は補助金に近い位置づけなので、それを差し引くと、テスラはまだ自力で黒字化できる構造になっていない。
2016Q3は黒字転換したが、2016Q4はクレジット収入がないため、再び赤字転落すると予想されている。
ギガファクトリーの操業やソーラーシティ買収など、巨額の設備投資がまだまだ続く。黒字化はモデル3の販売時期しだいとなる。
主要指標
純利益は赤字かつ無配当。PER、EPS、ROEといった主要指標はマイナスになり評価対象外。
機関投資家保有率
機関投資家の株式保有率は6割程度。いまの株価はおもに個人投資家が買い支えていそう。
アナリスト予想
アナリストレポートでリスク要素として指摘される筆頭がモデル3の発売時期とソーラーシティの買収。
コンセンサス
総じてリスクオフ傾向。まー、こうなりますわな、という状況。
モルガン・スタンレー
2017年2月9日、テスラびいきで有名なモルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナス(Adam Jonas)氏がテスラ株の新しいレポートを発表した。
「Tesla’s Mission 2017: Funding the Model 3」と題されたレポートでジョナス氏が指摘した要点は以下。
- テスラ株の評価は中立(Equal-weight)
- モデル3の開発は遅れており、2017年末に間に合わないだろう。2018年末に遅れると予想。
- 目標株価は242ドル。
ゴールドマン・サックス
ゴールドマン・サックスのテスラ関連のニュースとアナリスト予想。
- 2016年5月、パトリック・アルシャンボール(Patrick Archambault)氏は投資判断を中立から「買い」に変更。目標株価は240ドル。
- 同月、テスラが実施した14億ドルの公募増資でゴールドマン・サックスが共同主幹事を務めた。
- 4月から6月にかけてゴールドマン・サックスは保有していたテスラ株のおよそ半分を売却
- パトリック・アルシャンボール氏はGSを退職
- 10月6日、後任のデービット・タンベリーノ(David Tamberrino)氏はテスラの投資判断を中立に変更。目標株価は240ドルから185ドルに引き下げ。
- モデル3の遅延やソーラーシティ社買収などリスク要素が高まっているため。
Baird Equity
2017年2月9日、Bairdのアナリスト、Ben Kallo氏はQ4決算前にテスラ株の買い推奨するレポートを発信した。
- 目標株価は338ドル
- モデル3やギガファクトリー、パワーウォールに技術的優位性がある
- ソーラーシティはテスラの事業とシナジーを生み、リスクは少ない
- 堅調なQ4決算がソーラーシティ買収のリスクオフムードを打ち消す
- テスラは新車販売6ヶ月前に株価上昇する経験則
株価を左右する要素
テスラの株価に大きく影響するトピックをまとめた。
モデル3の発売時期
モデル3はテスラの社運がかかっている。発売時期が遅れるニュースがあれば株価が下がり、発売が近づくニュースが出れば株価が上がるという敏感なトピック。
テスラ「モデル3」、月内に工場準備 7月生産開始へめどか | ロイター
17年7月から生産開始か?という気の早いニュースも。
世界初の完全自動運転
テスラはHW2と呼ぶ自動運転システムのプラットフォームを全車両に採用している。
イーロン・マスクは完全自動運転機能のソフトウェア・アップデートを2017年上旬にリリース予定と宣言しているが、たいはんの投資家はモデル3同様、遅延すると考えていると思う。
じつはHW2による完全自動運転はnvidia社のディープラーニングによって驚異的なスピードでの開発が実現している。完全自動運転機能はイーロン・マスクの宣言通り、今年の6月〜9月にリリースされる可能性が高いと考えている。
保守的な大手自動車メーカーは高速道路のレーンチェンジ程度が精一杯のなか、世界初の完全自動運転をリリースできれば株価にもポジティブ・サプライズとなりそうだ。
テスラとnvidiaの自動運転については以下の記事参照。
テスラが世界初の完全自動運転を実現できる秘密はNVIDIAのディープラーニング技術にある - おばかさんよね
NVIDIAの自動運転技術はなにがスゴいのか - おばかさんよね
ギガファクトリー
テスラとパナソニックが共同出資するギガファクトリーも大注目。
ギガファクトリーはバッテリーのコストを3割以上低減するという野心的なプロジェクト。
電気自動車の半分以上のコストはリチウムイオン電池だといわれ、ギガファクトリーの立ち上げがうまくいけば、大手自動車メーカーとのコスト競争でも互角以上に戦えることはずだ。
しかもギガファクトリーのコストダウン計画は非常に理にかなっている。主な要素は以下の3つ。
- 製造工程の合理化
- セルの大容量化
- バッテリーを外販し量産効果を高める
製造工程の合理化
これまではパナソニックが国内で製造したセルをアメリカに輸送し、テスラが電池パックとして組み立てていた。ギガファクトリーではセルからモジュールまで一貫して製造でき、輸送費や製造工程を合理化できる。
トランプ大統領が目指すアメリカの製造業回帰にもつながり、ウケがよいはず。(日本の産業空洞化ともいえるわけだが)
大容量セル(3元系+2170サイズ)
ギガファクトリーではパナソニックが新開発した大容量セルを製造する。大容量セルを使うことで、従来より安くて軽いバッテリーが実現できる。
これまでテスラが使ってきた18650サイズ(直径18mm x 長さ65mm)に対し、新型は2170サイズ(直径21mm x 長さ70mm)。さらに正極材も三元系(NCM)になる。
バッテリーの外販
ギガファクトリーで製造する2170セルはモデル3やパワーウォールで使うだけでなく、外販することも想定されている。
もともとテスラは車載で一般的な角型ではなく、PCなどで一般的な円筒形を採用している。円筒形なら車載以外の用途にも広く売れる。
ソーラーシティ
赤字続きのソーラーシティは目下の懸案事項。
大手のEV参入
大手メーカーがEVに本格参入し、テスラのモデル3と同じコンセプトの車両を投入してきた場合、中身次第でテスラの立ち位置は危うくなる。
テスラ モデル3の優位性を超える対抗馬が出てくるかがポイントになりそうだ。
- 大衆車を狙った価格帯
- 自動運転機能
- 大容量バッテリー
メルセデスが発表したEV専用ブランド「EQ」なんかはテスラ対抗になりそう。
トランプ政権
トランプ政権はテスラにとってプラスにもマイナスにもなりうる。
米国内に工場を持つテスラにとって、トランプ大統領の保護主義的通商政策はプラスになりそう。
一方で環境規制より景気刺激策を優先する政策はマイナスとなりそう。
投資判断
以上をふまえた個人的な投資判断はこんな感じ。
買ってはいけない理由
- モデル3が発売されるまでキャッシュフローは赤字が続く
- ソーラーシティの赤字もどうすんのよ?
- 頼みのモデル3も2017年に発売できるのか、怪しい
つまり、まともに考えるとテスラは「買ってはいけない」銘柄。
それでも買う理由
それでもテスラ株を買う理由はイーロン・マスクの野望と夢を買うことに他ならない。
トヨタやGMなど巨大企業が牛耳る自動車業界を、シリコンバレー流のスピード経営で切り崩していくとしたら、さぞ痛快だろう。
世知辛い世の中、すぐに結果が出てしまう宝くじを買うよりも、一挙手一投足にハラハラさせられるテスラ株をつまんどくほうが面白いのだ。
いつ買うか?
2017Q4決算でのサプライズ発表への未練はあるけれど、いまは割高水準と判断している。
テスラの株価はファンダメンタルズで買われている要素は少なく、人気投票の要素がかなり強い。直近2年の株価は150ドル〜250ドルのレンジで動いている。
クレジット(排出権)収入で下駄を履いたQ3決算やギガファクトリーやモデル3関連のニュースで、テスラ株は過大評価されている。
2017Q4はクレジット収入がほとんどないという予想なので、多少、出荷台数が事前予想を上回ったとしても利益へのインパクトは限定的だろう。
なのでQ4決算を終えたあと、株価はゆるやかに下落トレンドになると予想。ソーラーシティ問題のリスクオフムードやモデル3遅延に失望した個人投資家がぼちぼちと売り出してきた230ドルあたりが狙いどきかな。