おばかさんよね。

EV覇権を狙う中国とコンゴのコバルト鉱山を巡る”KINAKUSAI”動き

公開日:  更新日: 2018/02/11

EVブームでコバルト相場が高騰しています。
cobalt-price
なかでも中国の”KINAKUSAI”動きが気になります。
コンゴ民主共和国のコバルト鉱山を爆買いする中国企業の戦略を勝手に読み解きます。

コバルトとは?

コバルトは世界の埋蔵量49%がコンゴ民主共和国に偏在し、リチウムイオン電池の正極材として需要が急増している典型的なレアメタルです。

純粋なコバルトは銀白色

純粋なコバルトは銀白色

アルミン酸コバルトがおなじみ「コバルトブルー」の顔料

アルミン酸コバルトはコバルトブルー顔料

需要動向

リチウムイオンバッテリー用途が過半です。特殊鋼(超硬工具や磁石)としても使われます。

Li-ion電池の正極材としての需要が急拡大している

Li-ion電池の正極材としての需要が急拡大している

リチウムイオンバッテリーの需要をけん引しているのは中国企業です。
テスラの計画は眉唾ものです。
サムスンSDI、LG化学もバッテリー増産を計画していますが、それを凌ぐ勢いで中国勢が伸びていくと言われています。

中国が大口需要家

中国が大口需要家


参考:
テスラとパナソニックの社運をかけたギガファクトリー構想 - おばかさんよね。

供給状況

コバルトは生産量ベースで約4割、埋蔵量ベースで4〜6割がコンゴ民主共和国に偏在しています。
また、98%のコバルトは銅やニッケルの副産物です。
したがって銅やニッケルが価格低迷すると、コバルトの供給も絞られます。

2つの供給リスク

2つの供給リスク

参考:

・商社は半年から1年の長期契約でコバルトを調達する場合が多い
・コバルトはリチウムイオン電池の製造コストの1~2割を占める
・今回の価格上昇は先高を見越した投機筋の買いが膨らんだことによるもの
・独フォルクスワーゲン(VW)は長期供給の確保に向けた入札を実施
(真相深層)コバルト EV普及の壁 国際価格、3倍以上に上昇 銅の副産物、急な増産できず :日本経済新聞(2018/1/12)

Cobalt Demand | Global Energy Metals Corp.
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の2014年時のレポート

コンゴ民主共和国の醜聞

コンゴ民主共和国とその周辺で採掘される鉱物資源は紛争鉱物(コンフリクト・ミネラル)と呼ばれています。
その多くが武装勢力の資金源となっている疑いがあるためです。
コンゴ民主共和国は Democratic Republic of the Congo、略してDRCとも呼ばれます。

アメリカ政府は錫、タンタル、タングステン、金の4つを紛争鉱物に指定し、サプライチェーン調査を義務付けています。
武装勢力と関係ないことを証明できれば問題ありませんが、君子危うきに近寄らず。
コンゴ民主共和国からの調達を避ける動きが広がっています。

コバルトは紛争鉱物に指定されていませんが、児童労働の問題が人権団体から指摘されています。

参考

 国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは今年1月、
コンゴの鉱山で、児童労働で採掘されたコバルトが、アップルやサムスンなどの大手メーカー製品に使われていると発表した。
「鉱山から仲介業者が買い付けたコバルトを、コンゴ国際鉱業(CDM)が仕入れます。
CDMは中国の会社『浙江華友コバルト社』の子会社。
コバルトはバッテリー部品メーカーに卸され、電極部品などになります。
そしてバッテリーメーカーがこれらの部品でリチウムイオン電池を作り、最終的にはアップルやサムスンなどのメーカーに納入されている」

アップル「コンゴ産コバルトの使用をやめてしまえば、現地の仕事がなくなるという新たな問題も生まれます。
情報が公開されていないのが最大の問題。
解決のためには、電機メーカーなどのサプライチェーン末端から、上流に向けて情報公開を求める流れをつくり、
そのうえで現地の労働条件を改善することが必要です」
スマホで使われるコバルトは子供たちが採掘している!?【アフリカ・コンゴの児童労働の実態】 | 日刊SPA!

華友コバルトのサプライチェーン

華友コバルトのサプライチェーン

華友コバルトは、コンゴで生産されるコバルトの40%以上を買い取っている。
華友コバルトは、リチウムイオン電池部材メーカー3社にコバルトを供給している。
アムネスティは3社が直接・間接の顧客だとしている多国籍企業16社に問い合わせを実施した。
コバルトの原産地を調べるために、これまでに華友コバルトに照会するなどの対応をした企業は1社もなかった。
コンゴ民主共和国:スマートフォンの裏に児童労働 : アムネスティ日本 AMNESTY

中国企業がコンゴで爆買いするワケ

武装勢力やら児童労働やら問題だらけのコンゴ民主共和国の鉱山を中国企業は爆買いしています。
こんな「いわく付き」の鉱物を買うのはなぜでしょうか?
おばかさんの読みはズバリこうです。

しょせん紛争鉱物は「世界の警察」ことアメリカの独善的な規制です。
そんなものは中国にとって屁の河童です。

コンゴ利権(=安価なコバルト)、ホワイトリスト規制(=リチウムイオン電池の内製化)、ZEV規制(=EV立国)の3つがキーワードです。

中国はEVで自動車産業の覇権を取ろうと目論んでいます。
そこで戦略的に必要不可欠(Strategic Imperative)なのが、EVのキーパーツであるリチウムイオン電池の内製化です。

現在はサムスンSDIやLG化学、パナソニックがリチウムイオン電池の大手サプライヤーですが、中国政府はホワイトリスト規制を巧みに使い、国内企業への技術移転を着々と進めています。

中国企業が技術力でキャッチアップした後、競争力を左右するのは部材コストです。
コンゴ民主共和国のカントリー・リスクはかえって好都合です。
クリーン調達という足かせをつけたグローバル企業を尻目に、中国企業が安価な車載用リチウムイオン電池に進出してくる日は近いかもしれません。

関連:
中国のNEV規制は巨大な釣り針。着々と進むリチウムイオン電池の内製化。 - おばかさんよね。
サルでもわかるリチウムイオン電池の値段が下がらない理由 - おばかさんよね。

参考

中華系サプライヤーはおしなべてゼロ点評価。
コンゴ問題を歯牙にもかけない様子が伺える。

アムネスティ・インターナショナルは2017年11月、
コンゴ民主共和国でのコバルト採掘で児童労働や危険有害労働が関与している状況をまとめたレポートを公表した。
Huayou Cobaltは人権リスクマネジメントが不適切だったことを認め、
コンゴ民主共和国での対応に乗り出したが、
仕入元の54社のうち国際基準に適合する作業の見直しを受入れたのは3社のみ。
同レポートは企業28社についての対応評価を最高4点から最低0点までの5段階で評価した。
【国際】アムネスティ、DRCコバルト採掘での児童労働・有害労働レポート公表。ソニーも評価対象 | Sustainable Japan

ニュース

紛争鉱物の見直し

言い出しっぺのアメリカでも紛争鉱物の規制緩和の動き。

 マイケル・ピウワー委員長代行は、紛争鉱物ルール見直しの背景について、
アフリカ産鉱物全体の不買運動など法律が意図しない結果を生んでいることや、
義務化されたデューデリジェンスの実施や情報開示が企業コストを生じさせていること、
法律が意図するコンゴ民主共和国での武装集団勢力の減退という効果を得られているのか疑いあることなどを挙げた。
関係者の間では、トランプ大統領が、ドッド・フランク法の他の規定が定める金融規制を緩和する方針を示しており、
それに引きづられる形で紛争鉱物ルールの有効性についてもチェックが入ることとなったのではないかという話も出ている。
【アメリカ】SEC、ドッド・フランク法の「紛争鉱物ルール」見直しを指示 | Sustainable Japan

長期供給契約

レアメタル確保が自動車メーカーの調達戦略の鍵となっている。

比亜迪(BYD)も3月、5億元(約84億円)を投じて中国の資源会社とリチウム開発で提携した。
同社はコバルト生産事業でも複数の国有企業との提携を模索している。
世界で「リチウム資源」争奪戦 中国の自動車大手、EV拡大にらみ豪鉱山「囲い込み」 (1/2ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

脱コンゴ

シェールガスのような技術革新が生まれない限り、コンゴ依存は根本的には解消できない。

自動車メーカーがサプライチェーンについて非常に心配しているため、コンゴ以外のコバルト埋蔵国の状況は良い方向に向かっている
ゴーストタウンだったカナダの「コバルト」、EVブームで活気づく - Bloomberg

焦点:EV革命の追い風あるか、金属リサイクル会社の挑戦

Congo Halts Sicomines Copper Exports, Orders Local Refining - Bloomberg
2017年10月9日、コンゴは中国 Sicomines社に対し、未精錬の銅とコバルトの輸出禁止を命じ、コンゴ国内で精錬するよう求めた。

China urged to ease reliance on DRC for cobalt(2017年11月7日)
中国もコンゴ以外の鉱山開発への投資を視野に。

コバルト関連銘柄

China Molybdenum(中国)

China Molybdenum Company Limited(CMOC、チャイナモリブデン、洛陽モリブデン、洛阳栾川钼业、SEHK: 3993, SSE: 603993)

2016年5月、洛陽モリブデンはフリーポート・マクモランが保有するコンゴのテンケ・フングルーメ鉱山の権益56%を26.5億ドルで買収すると発表した。
テンケ・フングルーメ鉱山(Tenke Fungurume Mine)は世界有数の銅・コバルトの鉱山。
この買収により洛陽モリブデンは世界有数のコバルト生産企業となった。

Zhejiang Huayou Cobalt (中国)

Huayou Cobalt Co., Ltd(浙江華友コバルト、浙江華友鈷業、SSE:603799 )

・韓国の鉄鋼大手POSCOと華友コバルトはリチウムイオン電池用正極材のJVを設立する
・JVでの生産開始は2020年予定。
・コバルトの安定した調達がPOSCOの狙い
POSCO to set up battery materials JVs with China's Zhejiang Huayou Cobalt
(2018年1月24日)

Glencore (スイス拠点、香港株)

Glencore(グレンコア、SEHK:0805)は世界最大の資源商社。

・グレンコア傘下のカタンガ・マイニングは2019年に最大3万4000トン前後のコバルトを産出する計画
・グレンコアはフォルクスワーゲン(VW)やテスラ、アップルに加え、バッテリーメーカー各社との間で供給契約を協議中
グレンコア、コバルト生産をほぼ倍増へ-EVバッテリー需要で - Bloomberg(2017年12月13日)

Freeport-McMoRan(米国)

Freeport-McMoRan Copper & Gold Inc.,(フリーポート・マクモラン、NYSE: FCX)

フリーポートは世界有数の銅、モリデブン、金の鉱山会社。
2012年1月、環境破壊とそれに抗議する住民への拷問・残虐行為を理由に、世界最悪企業賞(パブリックアイ・アワード)の6位に選出された。
2016年にテンケ・フングルーメ鉱山の権益56%を洛陽モリブデンに売却している。

・フリーポートと洛陽モリブデンのコバルト資産の売却交渉期間が終了した
・フィンランドのKokkola精錬所やコンゴのKisanfu探鉱プロジェクトは売却合意に至らなかった。
Freeport, China Moly agree to end talks on cobalt assets(2017年6月15日)