【考察】仕手筋の仕業か?「アップルがコバルト争奪戦に参戦」の裏を読む。
2月21日、アップル(Apple)がコバルト争奪戦に参戦しているとブルームバーグがスクープしました。
アップルの戦略的狙い、コバルトに群がる投機マネーを分析します。
目次
ニュース概要
アップルがコバルト争奪戦に参戦
アップルは鉱山会社と直接交渉しており、年間数千万トン規模のコバルトを5年以上の長期に渡って供給するよう求める交渉を水面下で進めていると匿名の関係者がリークした。
アップルが鉱山会社と交渉を始めたのは1年以上前だが、いまだ合意に至っておらず、このまま契約が見送りになる可能性もあるという。
コバルトとは?
EVで加熱するコバルト争奪戦について、詳しくはこちらの記事をどうぞ。
EV覇権を狙う中国とコンゴのコバルト鉱山を巡る”KINAKUSAI”動き - おばかさんよね。
加熱するコバルト市況
2018年時点で、世界のコバルト生産の約25%がスマートフォン向けリチウムイオン電池だと言われている。
アップルは世界最大級のコバルトのエンドユーザーだが、コバルト調達はATLやLG化学などバッテリメーカーに任せている。
EVでの需要拡大期待からコバルト価格は高騰しており、ロンドン市場のスポット価格は2年前の3倍以上となった。
調査会社ダートン・コモディティーズによると、このままEV普及が加速すれば2030年にはコバルト需要量が現在の6倍近くに跳ね上がると推計する。
商社のコバルト調達担当者は「中国政府はEV普及に力を入れており、今後も中国の調達は増えるだろう」と話す。
コバルトは航空機のエンジンに使うスーパーアロイ(耐熱用超合金)向けの引き合いも強い。
ある市場関係者の試算によると、スーパーアロイ向けの需要は16年から20年にかけて3割ほど伸びる見込みだ。世界供給の半分以上を占めるのがコンゴ民主共和国。
中国やカナダといった他の生産国のシェアは1割未満だ。加えてコンゴの鉱山では児童労働問題が指摘されている。
直接調達はサプライチェーンの透明性を高める意味でも重要といえる。
過熱するコバルト争奪戦、アップルの難敵はEV :日本経済新聞 2018年2月22日
スクープ元:
Apple in Talks to Buy Cobalt Directly From Miners - Bloomberg
おばかさんの考察
アップルが契約交渉していることは事実かもしれません。
しかし結論からいえば、アップルがどんなに頑張ってもコバルトの長期契約は不可能でしょう。
買い手(アップル)と売り手(鉱山会社、電池メーカー)、それぞれの立場から深掘りしてみます。
アップルにはハイリスク・ハイリターン
長期契約とは、日本の高度成長期に総合商社が鉄鉱石を安定供給するために使うような調達戦略です。
スマートフォンのように動きが激しいコンシューマ・ビジネスではスポット調達(随時契約)が鉄則です。
もしアップルが長期契約してしまったら、どうなるでしょうか?
思惑通りコバルト価格が上昇したら大儲けですが、
逆にコバルト価格が下落した場合、アップルは倒産してしまいます。
コンシューマ・ビジネスでは長期契約はハイリスク・ハイリターンの調達戦略なのです。
長期契約に応じる鉱山会社はいない
アップルが桁外れなプレミアムを載せない限り、長期契約に応じる鉱山会社はいないでしょう。
コバルトは空前絶後の売り手市場です。
独の自動車大手フォルクス・ワーゲンすら相手にされていません。
VWは先月、最低5年間は固定価格での供給を確保することを視野に入札を募ったが、応札する生産者がなかなか出ない苦しい状況に陥っている。
ある取引業者は
「自動車メーカーであるうえ、こういうことに慣れているせいか、彼らは傲慢だ」とした上で、
「入札の募集内容は全く的外れだ。交渉しても無駄で、それは論点でさえもない」と述べた。
[FT]VWのコバルト入札募集に生産者が反発 2017年10月16日
アップルのバイイングパワーが低下
アップルは自らのバイイングパワーが低下していくことを予見していて、
今のうちに有利な条件で調達契約を結ぼうとしているのかもしれません。
iPhoneは素晴らしいプロダクトですが、部品調達では「数の力」がモノを言います。
ローエンドのボリュームゾーンでは中国の新興メーカー(OPPO、Vivo、Huawei、Xiaomiなど)が急成長しています。
車載重視、スマホ軽視
現在、コバルトの1/4がスマホ向けと言われています。
スマホがリチウムイオン電池の需要をけん引してきたことは間違いありません。
しかしこれからの成長ドライバーは車載です。
スマホなど民生機器の供給は後回しにされるトレンドが生まれています。
すでにセラミックコンデンサやDRAMメモリーでは
車載や産業向けが優先され、民生向けは「おあずけ」をくらう現象で起きています。
2018年2月22日
2017年春から不足感が強い。
セラミックコンデンサーは、大手メーカーが車載向けに生産をシフトした影響が出ている。
スマホ1台当たりの搭載数が増えたのも重なり「電子部品の中で最も不足が顕著になっている」(国内アナリスト)。
暖房器具の増産に影 電子部品が調達難、コンデンサーの不足感強く :日本経済新聞
2018年1月31日
DRAMやNAND型フラッシュといった半導体メモリーはサーバー特需に沸く。
海外メモリー大手「米国のクラウド事業者は向こう1年分の購入枠を押さえている」
DRAMの大口価格が17年年間で2割、NANDは3割上昇した。
データセンター 市況揺らす(上)アマゾン、サーバー「爆買い」 メモリー特需、価格急騰 :日本経済新聞
2018年1月8日
グーグルは昨年秋のサムスンとの交渉で
「300ミリメートルシリコンウエハーで月間2万枚」
とDRAMの供給を求めた。
本来は個数で発注するはずなのに、製造側の単位であるウエハーベースで話が進む。
専用ラインを設けるかのような安定供給の要請だった。
半導体、異次元の攻防 顧客までサムスン詣で (ルポ迫真) :日本経済新聞
カスタムのスマホ、標準化の車載
歴代iPhoneやAppleWatchをみれば分かるように
スマホは機種ごとにバッテリーセルをカスタムメードしています。
限られたスペースでバッテリー容量を最大限詰め込むためです。
一方、自動車向けバッテリーではバッテリー・セルの標準化が進んでいます。
標準化の最右翼がノートPC用円筒形セルを転用したテスラです。
テスラの株価予想。赤字決算でも買う理由は? - おばかさんよね。
設置スペースに余裕があり、コストダウンと品質安定を最優先する車載用途では、スマホとは逆にバッテリーセルの標準化が好まれます。
DRAMのようなコモディティ(標準規格)なら、iPhoneの売れ残りをGalaxyに転売ができます。
しかしバッテリーセルはそうはいきません。
バッテリーサプライヤーにとってアップルとの商売は「毒リンゴ」なのです。
2、3年でモデルチェンジするiPhone向けカスタムセルよりも、
5年、10年と安定して売れるEV向け標準セルのほうがずっと良い商売です。
テスラとパナソニックの社運をかけたギガファクトリー構想 - おばかさんよね。
リークしたのは誰?狙いは?
おばかさんはニュータイプなのでエスパーします。
今回の情報をリークしたのはサプライヤー側(鉱山会社)の関係者だと予想します。
目的はコバルト価格および株価の釣り上げです。
冷静に分析すれば、アップルが長期契約できるワケがありません。
しかしパワーワード満載の刺激的なニュースなので、
投機マネーを呼び寄せるには十分な効果があります。
ブルームバーグのアナウンサーは、このスクープがその日一番のアクセスだったとラジオで語っていました。
大手コバルト鉱山会社であるチャイナモリデブン、華友コバルト、グレンコアの株価はご覧の通り、今回のニュースの影響と思われる値動きとなりました。
まとめ
チャイナモリデブン、華友コバルト、グレンコアの3社は、
きな臭い動きが漂うコバルトの関連銘柄として2月10日に紹介していました。
EV覇権を狙う中国とコンゴのコバルト鉱山を巡る”KINAKUSAI”動き - おばかさんよね。
当ブログの愛読者様にとって、今回のスクープは嬉しいお小遣いとなったのではないでしょうか。
構造的に今後もコバルトの需給ひっ迫が続くと予想します。
車載バッテリー向けのコバルト需要は間違いなく伸びます。
理由は中国のEVブームだけではありません。
トヨタ「プリウス」はいまだニッケル水素電池です。
日産「リーフ」もコバルトを配合したのは2017年モデルからです。
しかもコバルトは供給リスクも目白多しです。
鉱山がコンゴ偏在、中国企業が権益を抑えている、コバルトは銅やニッケルの副産物、コンゴの人権問題・・・
というわけで、ビットコイン感覚の投機目的なら、コバルト関連銘柄を買い増しするのも一案です。
しかし、こういう怪しいスクープ記事でイナゴが群がるようになると、
そろそろ仕手筋が売り抜けるタイミングも近いと思います。
ご用心あれ。