トヨタが仮想通貨技術「ブロックチェーン」を研究する目的
ビットコイン・仮想通貨が関連するキャッチーな話題では虚実ないまぜとなり、情報のノイズが増えてしまう。そんなわけでトヨタがブロックチェーンを研究するというニュースについて、事実を淡々とまとめてみた。
目次
ニュースの概要
2017年5月22日、トヨタの米子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI, Toyota Research Institute)」は仮想通貨の根幹技術であるブロックチェーン(分散型台帳)を次世代の自動車関連用途(モビリティ・エコシステム)に応用する研究に取り組むと発表した。TRIはMIT メディアラボ等と協業する。
ソース:トヨタのプレス
翌23日、仮想通貨「イーサリウム」のブロックチェーン技術の幅広い活用を目指す企業連合「エンタープライズ・イーサリウム・アライアンス(EEA, Enterprise Ethereum Alliance)」にTRIや三菱UFJフィナンシャル・グループ等が傘下することも明らかになった。
ブルームバーグ記事
よくある誤解
仮想通貨関連ニュースでは投機筋が流す間違った情報が多い。よくある誤解はこんな感じ。
仮想通貨の普及や高騰にはつながる!?
トヨタがブロックチェーンを研究するというニュースは間接的に仮想通貨全般やイーサリウムの地位向上に貢献するが、直接的な影響はない。
TRIが取り組むのは仮想通貨に使われる通信技術の応用研究であり、仮想通貨そのものの普及とは無関係。例えるなら紙幣の精密印刷技術を応用したプリンターを開発するようなもの。プリンターが実用化されても紙幣の普及とは無関係だ。
将来的にイーサリウムのブロックチェーン技術が仮想通貨以外の用途で実用化されたら、やれビットコインだ、やれリップルだと乱立する仮想通貨の生き残り競争において、間接的なプラス効果はあるだろうが。
ビットコインで車が走る!?
ビットコインが電気自動車や自動運転と並ぶ基幹技術になるようなトンデモ解説すら。むろんそんなわけはない。あくまでコネクテッドカー関連のひとつの技術としてブロックチェーンを検討しているに過ぎない。
ブロックチェーンの応用例
TRIがブロックチェーンを研究目的はプレスリリースに答えが書いてある。ブロックチエーンの特徴を活かして自動車関連用途への応用を目指している。プレスリリースに記載されている具体例はこんな感じだ。
運転履歴情報をセキュアにシェアする
ルー大柴っぽくなってしまったけど、ようは自動車の走行距離や整備情報、各種センサーのデータをクラウドサーバで共有することが可能になる。
いまはカーディーラーが持っている専用端末でないと中身が観れないデータがごまんとある。走行距離や事故履歴を不正に書き換えられることを防ぐためだ。
そこでデータの改ざんが難しいというブロックチェーンの特徴を応用すると、簡単かつセキュアに運転履歴情報の共有が可能になるというわけだ。
カーシェア・ライドシェアの鍵の受け渡し
ブロックチェーン技術はカーシェア・ライドシェアでのスムースな鍵の受け渡しにも応用可能。いわゆるスマートコントラクト。
仮想通貨の所有者をころころと書き換えように、自動車もスマホひとつでリアルタイムに所有者を書き換えることで、カーシェア・ライドシェアサービスの利便性向上につながる。
運転履歴に基づく自動車保険
グリーンだとかゴールドだとか免許証の色分けよりもずっと詳しい運転履歴が分かれば、自動車保険料を最適化できる。
データ改ざんが困難、ビックデータの履歴管理ができるというブロックチェーンの特徴は自動車保険にうってつけの技術となる。
まとめ
ブロックチェーンはすごい技術。でもキーワードが独り歩きしている印象はある。ちょっとしたガジェットをなんでもかんでも「IoT」と呼ぶのと同じ違和感だ。
これからの自動車産業がIT技術を取り入れて大きく進化するのは間違いない。ただ、そのときにブロックチェーンという言わばパワーワードを添えるかどうかの違い。本質的な違いを見極めなくては。
自動車産業のメガトレンドとブロックチェーンの関係は、たぶんこんな感じだ。
将来、EVシフトで車載コンピュータの消費電力制限がゆるくなり、自動運転化でクルマに乗るセンサーが膨大に、そしてコネクテッドカー化でデータをクラウドで共有できるエコシステムが完成する。集めたデータを安全かつ低コストで利用するのにブロックチェーン技術が要となる。
ただ、うるさいことを言わなければ違う方法でも実現できそう。アリババやテンセントなど中国のフィンテック企業ならあるいは。