サムスンがハーマンを買収できた理由・ハーマンが拒否できなかった理由
なんでハーマンは買収を拒否できなかったのか?
なんでサムスンはハーマンを買収できたのか?
どーも合点がいかないことが多い。
だってハーマンは業績好調の一本どっこ。しかも高級オーディオのブランド力が強み。
ゴリマッチョな社風のサムスンと相性が良いとは思えない。
プレスリリースにどんな美辞麗句をならべたって
ハーマンがサムスンの買収提案を友好的に受け入れたとは信じないもんね。
一方、サムスンがハーマンを欲しかった理由はわりと単純明快。
多角化戦略を展開するときに自前主義では時間がかかる。
M&Aで「時間をカネで買う」っつーのはおりこーさんな戦術だ。
サムスンが電子部品、スマートフォンにつぐ新しい事業領域として
自動車産業を狙うのもよーく分かる。
ちょっぴし疑問なのはサムスンの懐事情。
Galaxy Note7の爆発問題で金欠気味かと思ってたのにね。
てなわけでサムスンがハーマンを買収できた理由をザクザク深掘りしてみます。
目次
サムスンが買収できた理由
つまるところ、札束でほっぺたをぶん殴れば文句は言えない。
これがナウでヤングなグローバル資本主義のルール。
サムスンの手元に豊富なキャッシュがあった
投資上手なサムスンは日本企業みたいにちまちま貯金はしない。
普段は手広く投資しておいて、まとまった金が必要になったら数千億円くらいは朝飯前。
今年は非中核事業(ノンコア)を売却してキャッシュを準備していた。
財布をぱんぱんにふくらませてハーマンを爆買したってわけだ。
なんの因果か、Galaxyも膨らんで爆発しちゃったけど。
運・不運も勢いがある会社は違うね。
サムスンSDI、自動車用バッテリー会社に完全変身 | Joongang Ilbo | 中央日報
2016年1月、ケミカル部門を約26億ドルでロッテに売却
サムスンがシャープ等4社の株を売ったワケ | ロイター | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
2016年9月、出資していた約8.8億ドル分の株式を売却。
サムスン、米HPに複写機事業売却 「非中核」を分離 :日本経済新聞
2016年9月に10.5億ドルで売却
ハーマンは技術的な魅力が弱かった
ボッシュ「ハーマンがサムスンに買収されたようだな…」
コンチネンタル「ククク…奴はTier1の中でも最弱…」
NXP「携帯屋ごときに食われるとは名門企業の面汚しよ…」
コンチネンタル「お前もな」
地図情報を提供するHEREをノキアが手放したとき、
ドイツの自動車メーカー3社(BMW、ダイムラー、アウディ)がスクラムを組んで競り落とした。
なぜなら自動運転をリードするドイツの自動車メーカーにとって
HEREの地図技術がめちゃんこ重要なミソだから。
ヨーロッパの精密な地図情報とノウハウを海外企業に渡したくない、
というドイツの国家戦略的な事情もあると思う。
ところがどっこい、ハーマンはブランド力が強いけれど独自技術はイマイチ。
9年前にはヘッジファンドによる買収騒動もあった。
なんとなーくサムスンに買収されたら嫌だなー、
思い出の詰まったブランドなのになー、怖いなー、
と口をとんがらせる人はいても、
是が非でもハーマンを守りたい!
と思わせるほどの価値はなかったのだろう。無念っ(><)
株主至上主義のアメリカ企業だから
株価に28%のプレミアムというサムスンの買収提案を断るなら、
ハーマンの経営陣はそれ以上の業績向上を達成できることを株主に証明しないといけない。
これがアメリカの常識。会社は株主のものだから。
まー、こうなると断る理由は見つからないよね。なんならシナジー生まれちゃうくらいだから。
関連:
Shareholder lawsuit claims Yahoo derailed Microsoft bid | Macworld
マイクロソフトの買収提案を拒否したヤフーを株主が提訴
検察頼りの日本の株主:日経ビジネスオンライン
訴えの根拠は「買収提案を拒否し、取締役としての受託者義務に違反した」 ...
もしもハーマンが日本企業だったら
もしもハーマンが日本企業だったら買収されなかったはず。
買収提案を断っても経営責任は問われないし、カネに困ったら銀行がいる。
相手がカネに物を言わせて敵対的TOBをしかけても、
ブルドッグソースよろしく、お上が守ってくれる。
日本の財界ってやつは財閥、系列、株式持ち合いのしがらみ多くて、外国人が立ち入るスキがない。
護送船団方式とか日本株式会社とか、まー長期的なビジョンがあるとも言えるのだけど
ぼちぼち舵取りを変えていかないと「ニッポン沈没」になりかねないYO。
関連:
“ルール破り”ブルドック判決のツケ / SAFETY JAPAN [大前 研一氏] / 日経BP社
買収防衛策の適法判決に大前先生はたいそうお怒りでした。
ハーマンの企業価値
サムスンはハーマンをおよそ80億ドルで買収合意している。
これって安いの?高いの?
デカすぎて評価しづらいけど、いくつかのポイントに注目して考えてみる。
ハーマン傘下の注目企業
コネクテッド・カー市場の成長期待から
車載セキュリティ関連のRedbendやTowersecがイケイケだという。
ただ一歩引いてみると、同じくハーマンが買収したAhaが急速にオワコン化した前例がある。
RedbendやTowersecにしても技術的優位性は今のうちだけかもしれない。
アメリカのことわざ曰く、得やすいものは失いやすい(Easy come, easy go)。
ベンチャー企業のソフト技術は消費期限が短いナマモノ。
煮るなり焼くなりサムスンがどうやって調理するか、腕の見せどころになりますな。
Redbend
OTA(Over The Air, 自動アップデート技術)のRedbend(レッドベンド)。
RedbendのOTA技術はともかく実績がすごい。携帯電話はもちろん、車載システムにも採用されている信頼性がウリ。
2015年1月にハーマンがRedben買収を発表。
同時期にクラウド関連のSymphony Teleca(シンフォニー・テレカ)も買収した。
そして15年8月にコネクテッド・カー事業への注力を発表した。
Towersec
車載セキュリティソフトを開発するイスラエルのTowersec(タワーセック)。
2016年1月にハーマンが買収を発表。
Towersecのセキュリティ技術とRedbendのOTA技術を組み合せ、
「Harman 5+1 Cybersecurity Architecture」として売りだしていた。
関連:
【ハーマン オートモーティブ】エラーが許されない自動運転、5層ガードとOTAアップデートで守る | レスポンス(Response.jp)
タワーセック(TowerSec)社のECU SHIELDとTCU SHIELDという技術で、ハッキングや不正侵入をガードする。 ...
Ahaはなかったことに?
2010年にハーマンが買収した音楽配信サービスのAhaは
カーラジオに変わる新しいサービスだと注目されていたが・・・
いまやAhaを使うメリットが何も思い浮かばない。完全にオワコン化。
SpotifyやApple Musicなど
似たような音楽ストリーミングサービスがいくらでもある。
カーオーディオにAhaがなくても、BluetoothやAndroid Auto、CarPlayでシームレスにつながる。
たしかに先見の明はあったのだと思う。先見の明(だけ)は・・・
関連:
サムスン、パナソニックを凌ぐ存在感米クアルコムが先導する「イネーブラー」ビジネス――CESで表面化した自動車産業界再編2つの胎動(2)|エコカー大戦争!|ダイヤモンド・オンライン
テレマティクスでのイネーブラーの例としては、「aha(アハ)」がある。 ...
ヘッジファンドによる買収騒動
2007年4月、KKRとゴールドマンサックスの2社はハーマンを80億ドルで買収で合意した。
しかし、なんと同年9月に買収撤回を発表したからタマラナイ。
このニュースでハーマン株価は25%急落し、裁判沙汰になったが、
結局、KKRとゴールドマン・サックスは4億ドルの転換社債を購入することで和解した。
ちなみにこのときの社債は2012年に完済されている。
買収撤回の真相
なぜ買収撤回されたのか、真相は闇の中。
2007年はちょうど金融危機のタイミングだったので、
LBOリスクをヘッジファンドが恐れた可能性はアリアリ。
がしかし、わずか4億ドルの出資で和解したところを見ると
「ハーマンの財務状況がひどかった」
というヘッジファンド側の主張にも信憑性がある。
よくわからないけど、火のないところに煙は立たないっていうじゃん?
だからハーマンの財務状況にネガティブな印象がつきまとう出来事になったのかもね。
80億ドルはお買い得か?
ニューヨーク・ポスト紙の取材に対して
2007年の買収に詳しい関係者は
「あのときハーマンを買わないで本当によかった」
と感想を漏らしている。
当時、ヘッジファンドはハーマンの企業価値をEBITDA倍率11.7倍と評価したのに対し、
サムスンはEBITDA倍率9.3倍でハーマンを買えたことになる。
サムスンの既存事業との相乗効果を期待すればお買い得な金額と言える。
ソース:
投資ファンドが米ハーマン買収を撤回の方針 | ロイター
KKRとGSはハーマンの瑕疵を主張
KKRとゴールドマン、米ハーマン<HAR.N>から4億ドルの優先債取得で和解 | ロイター
KKR | KKR and GS Capital Partners to Invest in Harman International
KKRが和解をコメント
HARMAN announces repayment of its convertible notes due October 15, 2012 | HARMAN
ハーマンはKKR・GSとの財務的関係が解消したと発表
Samsung buys Harman International for $8 billion | New York Post
2007年の買収関係者の一言コメントあり
Samsung Electronics to Acquire HARMAN, Accelerating Growth in Automotive and Connected Technologies | HARMAN
サムスン買収ではJPモルガンとLazardがハーマンの財務アドバイザリー
Jeepハッキング事件
2015年にJeep(ジープ チェロキー)がハッキングされる動画が公開され、クライスラー(FCA)がリコールする事件が置きた。U-connectの脆弱性が原因とされ、ヘッドユニットを製造するハーマンにも疑いの目が向けられた。
のちにハッキング手法が一部公開され「誰が悪いってわけでもなくない?」という雰囲気になったが、
事件の結末も含め、もやもやーとした歯切れの悪い印象が残った。
Black Hat USA 2015:ジープのハッキングの全容が明らかに | Kaspersky Daily - カスペルスキー公式ブログ
CANバス経由でコマンドを送信し、車に搭載されているコンポーネントをすべて(本当に全部!)自在に操作することができました。...
Jeepハッキング手法を種明かし
クライスラー、ハッキング対策で140万台リコール :日本経済新聞
クライスラーはこのような「遠隔操作による犯罪行為」を未然に防ぐ目的で、すでに改良ソフトウエアを配信していたが、社会的な関心が高まっていることから自主的リコールに切り替えた。 ...
あくまで自主的なリコールという姿勢
ネット接続車のハッキングリスク、FCAに限られる=米ハーマン | ロイター
クライスラーの専用無線回線「Uコネクト」にはハーマンの製品が使われている。 ...
ハーマンは自社の責任を否定