おばかさんよね。

デンソーが出資、トヨタに採用。それでもテックポイント株を買ってはいけない3つの理由【株価予想】

2017年9月にIPOしたばかりの半導体ベンチャー、テックポイント(Techpoint)について手ぬるいインタビューばかりで解説記事が見当たらなかったので、おばかさん独自視点で事業内容を分析してみました。
techpoint

テックポイントはDENSO International America(デンソーの北米拠点)が9.88%出資しており、小里家についで実質第2位の主要株主となっています。
DENSO International America社 Vice Presidentの森 幸示氏が役員になっており、ベンチャーとはいえバックボーンに信頼感があります。

さらにテックポイントの製品はトヨタの車載カメラで採用されており、今後の成長にますます期待できそうな雰囲気があります。

しかし!
事業内容を調べた結果、私はテックポイント株への投資を見送りました。
その理由は3つあります。

理由1「車載カメラで強みがない」

テックポイントは車載カメラ向け拡販を成長戦略として掲げていますが、成長どころか生き残ることすら難しいだろうと予測しています。

HD-TVIの技術的特徴が車載カメラでは差別化につながらないことが決定的な理由です。
HD-TVIの主な特徴は次の4点です。

  1. アナログ伝送で長距離伝送が可能
  2. 同軸ケーブルでHD画質に対応
  3. 低遅延
  4. アナログSD(NTSC規格)と後方互換性がある

まず、車載カメラのケーブル長は10m級なのでデジタル伝送でも問題ありません。
同軸対応や低遅延特性についてもデジタル伝送で対応できます。
唯一、アナログカメラとの後方互換性がHD-TVIだけの強みですが、アナログカメラとデジタルカメラに両対応しないといけないケースは自動車では極めて稀です。

競合

車載カメラ用途はHD-TVIと似たような規格が既に採用されており、しかも大手半導体メーカーが注力している競争が激しい市場です。

ルネサスやフリースケール(NXP傘下)が推進している「Ethernet AVB」、テキサス・インスツルメンツ(TI)の「FPD LINK(LVDS)」、MAXIM(マキシム)の「GMSL」、ザイン(THine)の「V-by-one」、テックウェルを買収したインターシル(現:ルネサス傘下)など。

MAXIMのGMSL規格は車載プロセッサ大手のルネサスやNVIDIAと提携して、車載カメラのハイビジョン化、マルチカメラ化に先手を打っています。
Maxim、ルネサスの「R-Car コンソーシアム」に参加
MaximとNVIDIA、車載インフォテイメントおよび自動運転ソリューション向けのDRIVE CXおよびPXプラットフォームでコラボレーション

よほど強力な差別化要素がないかぎり、価格勝負に陥ります。
単なる価格勝負になったら大手企業には敵いません。
手強い競合がひしめく車載カメラ市場でテックポイントの強みはあるのでしょうか?

トヨタ ディーラーオプションで採用された理由

テックポイントのHD-TVIはトヨタの2016年 ディーラーオプション(販売店装着オプション)の高画質リアカメラ「マルチビューバックガイドモニター」で採用されています。

トヨタのディーラーオプションでHD-TVIが採用された理由は後方互換性(NTSC対応)です。
車両に予め配線されたワイヤーハーネスで、メーカーオプションの標準画質リアカメラ(NTSC方式)とディーラーオプションの高画質リアカメラに両対応する必要があったからです。
日本向けに特別装備を設定してシステムにねじ込むというトヨタらしい力技ですね。

そもそもリアカメラを車両ごとに統一すれば後方互換性は不要です。
HD-TVIがトヨタで採用されたのは「まぐれ当たり」にすぎず、
「二匹目のドジョウ」は釣れないでしょう。

HD画質対応カーナビゲーションシステムの開発について(富士通テン技報)
HD-TVI採用した経緯について

理由2「監視カメラ一本足」

悲観的な将来像しかない車載カメラとは違い、監視カメラは当面、安定的な売上が確実視されています。
既存の同軸ケーブルを交換せずにハイビジョン化実現できるという特徴がバカウケしているとか。

しかし絶好調の監視カメラ市場でもリスク要因が3つあります。

1つめは特定顧客向けの依存度高いことです。
特定顧客に依存している半導体企業の株に軽い気持ちで手を出すと火傷します。
たとえばApple依存していたImagination(イマジネーション)は身売りする羽目になりましたし、Ambarellaの株価はGoProやDJI次第で乱高下しています。

2つめは競業企業のキャッチアップです。
テックポイントの独走が続く保証はなく、アナログ方式で競合しているNextchipやDahuaが画質で追いついたり、価格を下げてくるかもしれません。

3つめはIPカメラの普及です。
IPカメラではビデオ圧縮に強いAmbarellaに注目しています。
Ambarellaの銘柄分析。暴落した今が仕込み時か?「ポストNVIDIA」として期待。 - おばかさんよね。

理由3「テックウェルとの関係」

突っ込みどころ満載の半導体ベンチャー「Techpoint」のIPO初値を大胆予想 - おばかさんよね。
で書いていましたが、テックウェルとテックポイントの関係が気になっていたので時系列を調べてみました。
どうやら訴訟リスクはないように見えますが、商業道徳上の疑問が残ります。
売却した企業と同じ業界で起業するのってアリ?ナシ?

  • 2010年、インターシルにテックウェルを売却
  • 2012年4月、テックポイント、設立
  • 2012年9月、インターシルがSLOC技術を発表
  • 2013年9月、テックポイントがコネクサントからHD-SDI事業を買収
  • 2014年5月、テックポイントがHD-TVI対応製品を初出荷
  • 2014年6月、インターシルがHD-SDI対応製品を発表

テックウェルを売却したのが2010年、そしてテックポイントが監視カメラ業界に参入したのが2013年です。
3年経過しているので、競業阻止義務とかそのあたりは失効してそうですね。

特許や知的財産権の抵触を心配してましたが、テックウェル時代はデジタルハイビジョン志向だったから訴訟リスクは低そうです。

HD-TVIと同じアナログ伝送方式である「HD-CVI」を開発した中国 Dahua社と特許問題が過去にあったようですが、テックポイントはHD-TVIはHD-CVIの特許に抵触しないという立場を表明しています。
The Company Hehind HD-TVI_ivt

SLOCとは

Security Link over Coaxの略。
sloc
1本の同軸ケーブルでSD画質のアナログビデオ信号(CVBS、コンポジットビデオ)とHD画質のデジタルビデオ信号(イーサネット)を同時に伝送できるのが特徴。
テックウェルが開発した技術。
Intersil MediaRoom - Press Releases

コネクサントとは

コネクサント社(Conexant Systems)はロックウェルの半導体部門からスピンオフした企業。
経営悪化により2013年2月に連邦倒産法第11章(チャプター11)を申請し、事業ポートフォリオの整理を行った。
このタイミングでCX259xxなどHD-SDI事業をテックポイントに売却した模様。

コネクサントは2017年にSynapticsに買収された。

HD-SDIとは

同軸ケーブルでHD画質のデジタルビデオ信号を伝送する規格。
リピーターなしで最長150mの配線が可能。
sdi
オープンな統一規格のため、インターシルでもコネクサントでも対応チップを開発できる。

HD-TVIとは

テックポイントが独自開発したアナログビデオ伝送方式。
アナログ方式なのでHD-SDIよりノイズに強いのが特徴。

同じようなアナログ方式として韓国 Nextchip社が開発した「AHD」や中国 Dahuaが開発した「HD-CVI」という規格もある。
アナログ方式はデジタル・アナログ変換による画質劣化が避けられないが、AHDやHD-CVIと比較してHD-TVIは画質が良いのが特徴。

参考情報

新有価証券信託受益証券発行届出目論見書よりトピックをまとめました。

概要

  • 中国 Hikvision(ハイクビジョン)、韓国 IDIS(アイディス)、台湾 AVTECH(エーヴィテック)など監視カメラ大手に採用されている。
  • 2016年12月期 売上高の66%が Hikvision・IDIS・AVTECHの3社に依存。
  • 2016年売上高の88%が中国地域向け。
  • 2016年度売上の98%超が監視カメラ向け。車載カメラ向けは2%未満。
  • 2016年より車載リアビューカメラ向け製品が主要自動車部品メーカーで採用開始。2016年12月期の車載向け売上は625千米ドル。
  • 日本の大手自動車メーカーのディーラーオプションで採用されている。2016年8月から車載カメラメーカーに納入開始している。
  • ほぼすべての製品の半導体製造工程をTSMCに委託している。組立、検査工程をASEに委託している。

事業および業界に関するリスク

  • 監視カメラのローエンド向けはNextChip社と市場シェアを二分。
  • 監視カメラ向けビデオ処理ICは急激な技術変化、販売価格の下落が起こりうる
  • Hikvisionの販売代理店Phitec社との契約は一方当事者からの1ヶ月前の通知により終了する規約となっている
  • 製造委託しているTSMC、ASEと取引基本契約を締結しておらず、直前通知により納期遅延が発生する可能性がある。
  • 知的財産権に関する訴訟リスク。過去に使用権取得を勧める書簡を第三者から受領したことがあり、権利侵害の主張や将来の訴訟につながる可能性がある。但し現時点ではそのような訴訟等はない。
  • 現時点ではテックポイント社の知的財産は特許で保護されていない。

まとめ

シリアルアントレプレナーである小里文宏CEOの経営手腕やユニークなビジネスモデルなど、テックポイントは気になる魅力が多い半導体ベンチャーです。
そこで真剣に調べてみた結果、監視カメラ一本足でリスクが大きいわりに成長戦略の実現性がないと考え、現時点では株を買うことは見送る判断としました。

小里文宏氏の知見を活かしてハイテク系ベンチャーのインキュベーションなど、投資関連業務に舵を切ってみたら面白いと思います。

半導体事業は大手が取りこぼしているニッチ市場の落ち穂拾いに徹するゲリラ戦略を取るべきでしょう。
クアルコム(Qualcomm)やアンバレラ(Ambarella)のように強力なIP(知的財産、特許)を持っている企業ならファブレスでも大手と戦えますが、いまのテックポイントでは力不足です。
ちょっと旬を過ぎていますが、ビットコインや仮想通貨向けマイニングASICとか、アレげな領域を探せばチャンスがあると思います。

いかがだったでしょうか?
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