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ホンダのEV戦略に秘められたポテンシャル

公開日:  更新日: 2017/10/08

2017年6月の「Honda Meeting」で、ホンダはEV開発を強化する戦略を打ち出した。

従来、ホンダは「EVに出遅れている」とか「EVに消極的だ」とか、電気自動車視点での評判はよろしくなかった。

しかし、今回発表された小型車と電動バイクに注力するという戦略は実に妙手

トヨタやVWがテスラ対抗車を必死に開発するのを横目に、ホンダの強みを活かした独自ポジションをEV市場で獲得できるポテンシャルがある。

ホンダのEV関連の取り組みをまとめてみた。

ホンダのポジション

まず自動車業界におけるホンダのポジションについて。

トヨタやVWのような「1000万台クラブ」とガチンコの体力勝負はできないし、かといってマツダやスバルのような「100万台クラブ」ほどターゲットを極端に絞り切るわけにもいかない。

これからの自動車業界で生き残るうえで、ホンダの規模感は舵取りが難しくなる。気を抜くと中途半端で没個性的なブランドになりかねないからだ。

EV市場はイバラの道

自動車のEV化はメガトレンドのひとつ。
ただしEV市場はまだまだ補助金頼みであることも忘れてはならない。

電気自動車の最大の弱点はバッテリーにある。
今のリチウムイオン電池の性能でガソリンエンジンと同等の航続距離を稼ぐには大量のバッテリーを積まなくてはならない。

そうなるとコストが高くなってしまう。
だから電気自動車のターゲットはおのずと高級車中心となる。

中国やカリフォルニア州のように補助金で下駄を履かせて、電気自動車を大衆車にも普及させようとする試みもある。
補助金頼みが危険なのは言うまでもない。政策次第で右往左往する羽目になる。

EV開発は進むも地獄、退くも地獄のイバラの道……あな恐ろし。

小型車と二輪に注力

そこでホンダが打ち出したのは、小型車と二輪に特化したEV戦略!

小型車と二輪はホンダの得意領域。

しかも小型車とバイクはチョイ乗りが多く、電動化との相性がいい乗り物だ。
燃費を気にする消費者目線でもお買い得感がある。

ズバリ小型車と二輪はEVのブルーオーシャンになりうるのだ。

それではセグメントごとの取り組みを紹介しよう。

Bセグメント(小型車)

ホンダは小型車専用EVプラットフォームを開発する。
関連する主なトピックは次の3つ。

  • 2017年秋のモーターショーでコンセプトカーを発表
  • 2018年に中国専用モデルを発売予定
  • 中国以外にも世界各国に地域専用モデルを投入予定

2017年秋のモーターショーとはおそらく東京モーターショーか、あるいはフランクフルトモーターショーのことだろう。

中国市場を最初に狙い、さらに地域専用モデルを展開する計画にホンダの本気度が伺える。

中国のEV市場を攻略するなら中国専用モデルが必要不可欠だ。
中国政府はNEV規制で電気自動車の普及をモーレツに推進しているが、中国製バッテリーを使わないと補助金対象にならないなど、どぎつい非関税障壁があるからだ。
関連記事:
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FIT EV

ホンダのBセグメントのEVといえば、過去にはFIT EVがあった。
fitev

FIT EVはリース販売限定で、ガソリンエンジンの普通のFITを上回るパフォーマンスとは言えなかった。
2017年秋に発表されるコンセプトカーがどこまで進化するのか、楽しみだ。

二輪(バイク)

ホンダの看板商品「スーパーカブ」も電動化され、2018年にEVカブとして発売予定。
ev-cuv

さらに日本郵便と提携し、郵便配達用バイクも電動化する計画だ。
電動アシスト自転車のように着脱式のモバイルバッテリーで駆動できるのが特徴だ。

Dセグメント(中型車)

ホンダのDセグメントのEVはクラリティだけ。
「ホンダはEVに消極的だ」という印象を与えてしまう一因になっている。

クラリティは「おかざり」

DセグメントのEVとして「クラリティ Electric」を2017年にリース販売する予定だが、実態はコンセプトカーに近い。
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「クラリティ Electric」は燃料電池車「クラリティ フューエルセル」やプラグインハイブリット(PHEV)「クラリティ Plug-in Hybrid」と同じプラットフォームで、量産性は低い。

「クラリティ Electric」は米国のZEV規制の対策として、カリフォルニア州など限られた地域でリースする「おかざり」的な位置づけに過ぎない。

モーターは日立と共同開発

2017年2月にホンダはEV用モーターを日立オートモーティブシステムズと提携すると発表した。
EVの心臓部というべきモーターで脱・自前主義、脱ケーレツに舵を切ったのは大胆な判断だ。

EV開発室を新設

2016年10月にEV開発室を新設した。

リスク

オープンイノベーション志向のホンダはとってもトレンディ。
デンソーやアイシンなど系列企業と連合艦隊を組むトヨタとは真逆の方針。

しかし!裏を返せば真似をしやすいのがリスク。
中国の自動車メーカーや電動バイクメーカーはホンダの脅威になりうる。

アクションカメラで一世を風靡したGoProが中国のコピー商品にシェアを奪われたように、ホンダのコンパクトEVや電動バイクも猿真似される危険がある。

EVは従来の自動車よりもグンと家電に近い世界となる。
日本メーカーが得意としてきた微妙なすり合わせによるエンジニアリングで差別化するのは難しくなってくるはず。

ホンダがコンパクトEVや電動バイクで確固たる地位を獲得するためには、もう一発の飛び道具が欲しいところだ。

たとえばソフト面。
全国の郵便局やコンビニで乗り捨てできるバイクシェアリングサービスとか。
EVカブ専用の格安バイク保険とか。

あんなこといいな、できたらいいな!の世界であります。

ソース

本田技研社長のインタビュー記事
ホンダのプレスリリース