おばかさんよね。

電気自動車の「不都合な真実」

公開日:  更新日: 2017/10/08

世間ではさ、電気自動車、電気自動車って騒ぐけどさ、本当にそんなに電気自動車って普及するのかな?怪しくない?と思い、調べてみた。

テスラ株価急騰の背景

ちかごろテスラ株が急騰している。時価総額でフォードを越えたというから尋常でない。革新的なモデル3発売が材料視されているわけだが、これはテスラ=電気自動車のシンボルマークとして認知されていて、世間のEVへの期待が高まっていると読み解くことができる。

自動車業界のパワーワード

自動車業界では投資家の関心を引き寄せるパワーワードが3つある。それが「自動運転」「コネクテッド・カー」「EV」だ。このパワーワードを適当に並べておけば、マスメディアがこぞって記事にしてくれるじつに便利なフレーズである。バズ狙いなら「IoT」や「スマート〜〜」というキーワードを混ぜてもいい。

3はマジックナンバーだというが、「自動運転」と「コネクテッド・カー」が2020年〜2025年にむけて大きく進化するのと比較すると「EV」は話題先行気味。

なぜEVは普及しないのか、電気自動車に潜む「不都合な真実」をえぐり出そう。

馬車のアナロジーは間違っている

「ヘンリー・フォードが馬車を滅ぼし自動車の時代をつくったように、テスラがガソリン車を滅ぼし電気自動車の時代を切り拓くだろう。」という馬車のアナロジーは間違っている。

ヘンリー・フォードの時代、人々は「もっと早い馬車が欲しい」と考えていたが、いまの時代、「もっと早い自動車が欲しい」というニーズはごくわずか。

「安くて燃費が良い車が欲しい」という大衆車のニーズを電気自動車が満たすためには、まだまだバッテリーの飛躍的進化が必須。

ちなみにいまの技術レベルでは二輪(バイク)が限界。中国では原付バイクが姿を消し、E-BIKEが主流になっている。

統計データからの予想

「EVの市場規模の見通しはどんだけ〜?」というわけで、統計資料をあたってみる。

普通乗用車の市場規模と台数トレンド

まずは自動車の市場規模を調べてみる。このグラフは主要地域別の販売台数の推移を示している。2015年まではOICAの統計データより、その先は筆者が鉛筆と鼻くそをなめて作ったものだ。
EV-Q1

ポイント

まず全体トレンドとして、グローバルの販売台数は今後も堅調増加していく。その理由はいたってシンプル。中国市場が伸びるから。

とにもかくにもこの先10年の成長ドライバーは中国市場にかかっている。市場規模の観点では中国以外の新興国(インドやASEANなど)の寄与度は依然として低いままだ。

アメリカや欧州、日本など主要先進国は自動車普及率がピークに達しており、もはや横ばい。むしろ高齢化やカーシェア・ライドシェアサービスの普及で減少トレンドになりうる。

2010年台の世界新車販売台数はおよそ約9,000万台、2020年頃に年間1億台規模に達するというのが自動車業界の共通見解となっている。そして2025年~2030年にむけても、同じ年平均成長率(CAGR)をなんとなく維持するんじゃね?という推論から1.1億台くらいがベースシナリオ。

パワートレイン別の台数推移

つぎにパワートレインの構成比に注目した台数推移がこちらのグラフ。
EV-Q2

これからはテスラの時代だ!電気自動車の時代だ!とマスコミが騒いでいるものの、マジになって市場調査してみると、EVはこれっぽっちも普及が進む気配がないことを示している。

EVとHVをあわせたNEV(新エネルギー車)は2030年で2,000万台レベル。燃費規制の動向次第で上下するとはいえ、NEVの半分以上はマイルドHVになるという予想。

燃費規制の「建前」と「本音」

EVの普及が進まない理由は自動車の燃費規制に隠れている。

建前

「エコ」が燃費規制を導入する建前上の理由。燃費の良い車を増やすことで地球への環境負荷を減らして持続可能な発展に貢献しましょう、というロジックだ。しかーし馬鹿正直に環境負荷だけで燃費規制を導入すると「環境税」と同じ問題にぶち当たる。燃費規制=税金が増えるので、経済成長的にはマイナス。なので素直に燃費規制を導入すると正直者がバカを見る結果となってしまう。

本音

つまり「エコ」は建前であって、燃費規制の「本音」は非関税障壁だ。日本はトヨタが有利になるように、EUならフォルクスワーゲン、米国ならGMといった具合に、それぞれが自国の自動車産業を保護する制度設計になっている。

マイルドHVが次世代パワートレインの本命

化石燃料を一切使わないのでエコロジー的に電気自動車は理想的かもしれないが、ガソリン車より製造コストが高い。EV普及を後押しするには燃費規制による補助金が不可欠だが、消費者がEVに経済的メリットを感じる程度まで補助金が支給される可能性は極めて低い。

おばかさん的にはマイルドHVが次世代パワートレインの本命になると予想している。見立てはこうだ。先進国も新興国も都市部ではハイブリット車が乗用車の主流になる。都市部はブレーキを踏む頻度が高いので回生エネルギーとして回収できるハイブリット車のメリットが大きい。しかし化石燃料とリチウムイオン電池の価格バランスを考えると、大衆車で大容量電池を搭載するメリットは少なく、比較的低コストで燃費改善効果が得られるマイルドHVが有力ではなかろうか。

EVのアップサイド・シナリオ

おばかさん的には「EVは騒ぐほどには普及しない」と読んでいるが、EVが急速に普及するアップサイド・シナリオがないわけではない。一発逆転をもたらす注目要素が中国。近年、中国の自動車市場は急速に拡大しているにもかかわらず、市場シェアを合弁企業のグローバルブランドが牛耳っており、中国国内の自動車産業は未成熟だ。

技術的ノウハウが乏しい中国企業にとって、やっかいなエンジンを必要としないEVならトヨタやVWとの技術的ビハインドを埋めやすい。しかもEVのキーパーツであるリチウムイオン電池でも中国企業の存在感が日増しに強くなっている。

自動車と電池という基幹産業を育成するための博打として中国政府が膨大な補助金をばらまいたなら、ひょっとしてひょっとするかもしれないゾ。

いつ、どれくらいの補助金が出たら普及率が変わるのかを見極めるためにも、次はEVの技術的課題を整理してみたい。