おばかさんよね。

10年先を見据えたR&D戦略は穀潰しなのか?

公開日:  更新日: 2018/02/10

米国流の株主利益・ROI重視の経営思想こそが正義!という思想が日本でも常識になりつつある。必然的に研究所レベルのR&D戦略も短期的な出口戦略を意識する傾向へと変化している。
たしかに企業の研究所というと穀潰しというイメージが強い。
今の時代にフィットした、それでいて企業の将来の競争力につながるR&D戦略はどうあるべきなのか、考えた。

日本型R&Dモデルの終焉

かつて長期スパンのR&D戦略が日本企業の強みとして挙げられていた。しかしバブル崩壊後、みるみるうちに日系企業はグローバルでのプレゼンスを失い、韓国の新興企業にあっという間にキャッチアップされた。

日本企業が停滞しつづける一方、米国ではドットコムバブルが湧き上がった。アップル、マイクロソフト、グーグルなどイノベーション志向の企業が誕生。

雑にまとめると、カビ臭い研究所や大企業病ではR&Dは概して穀潰しで、
もっとカジュアルで若者のクリエイティブを刺激するようなオフィスで、
インセンティブをぶらさげるスタイルこそがイノベーションを生む、という考え方がでてきた。

IBMの半導体R&D戦略

IBMは大企業病の典型でありながら卓越した事業戦略で成功しつづけている稀有な企業。
ハードウェアからITサービス主体に華麗にシフトしたお手本だが、じつは半導体のR&D部門をいまだに持ち続けている。

VLSI Researchのリポート
和訳

このリポートによるとIBMが半導体のR&Dを続ける理由は10年、20年先の競争力に結びつくからだと結論付けている。その裏付けとしてアップルやグーグル、フェイスブックなどITサービス主体の企業も半導体の要素技術に投資していることを挙げている。

仮説に仮説をぶつけるだけだが、どーも本質的には違うと思う。
R&D部門がIBMの競争力の強力な源泉になっていることは確かだが、
かつての日本企業とやっていることは同じに見える。
IBMが巨大な穀潰しを養えるのは軍需関係の仕事があるからではないか。
イージス艦や高性能なレーダーなど世界最高性能を実現するためには
最先端の半導体プロセスと密接に結びついている。

アップルやグーグルのR&DはIBMとは時間的視野が根本的に異なっている。
アップルはあくまで3年後に発売するiPhoneのカスタムチップをつくるためという超短期的な目的だ。
アップルがIBMのR&Dモデルをリバースエンジニアリングしている、という見方には無理があるので、
こう考えたほうが自然に思う。

富士通はどうなるのか?

話は日本企業に戻り、いま注目のケースは富士通。
ハード主体からソフト主体へのビジネスモデル変革を掲げ、カーナビ事業とパソコン事業を手放した。
この路線なら半導体事業も手放すのは時間の問題だと思うが、気になるのは研究部門をどうするのか。

富士通はIBMをベンチマークとしているが、IBMのように半導体のR&D事業を続けていく意味は薄いと思う。軍需ニーズが取り込めないからだ。IBMと同じR&D戦略を取れるのは三菱だけ。

日本の閉鎖的な市場を盾にして、オラクルの販売代理店の元締めのようなポジションになるのだろうか。手札の切り方は読めても、手にしたキャッシュで何を生み出すのかが見えない。

民間企業のR&D戦略は?

10年先を見据えたR&Dは穀潰し。
垂直統合でも水平分業でもR&Dは事業性が見えるテーマにしぼり、ROI重視する。
これがこれからのR&D戦略の標準では。

唯一、長期的スパンのR&Dで成功できるのはプラットフォーマーだと思う。
トヨタ、VW、IBM、クアルコム、グーグルなど業界のルールを自社で仕切っていく影響力があり、絶対的な参入障壁を持っている企業。
どうやったらプラットフォーマーになれるのか。
トヨタは日本市場、VWは欧州という足場があるのが当たり前なので、謎の大企業クアルコムの例を調べてみよう。