おばかさんよね。

サムスンの車載戦略を整理する

公開日:  更新日: 2017/10/08

ハーマンを買収したサムスンは具体的にどうすんの?どうすんのよ、サムスン!?
どの記事を読んでもさ、車載参入というお題目ばかりで具体的な施策が見えてこないわけよ。
解説記事もいろいろあるけど、なーんかところどころに的外れ感があったりでさ。
それでわたし、気付いちゃったんです。
あ、これは論点が散らばってるからだなー。勘違いは怖いなーってね。

つーことで、サムスンの車載業界への参入戦略をミクロとマクロの視点で整理してみたのよ。
そしたら、これが分かりやすいのなんのって・・・自画自賛でゴメンね、ゴメンね〜。

ミクロな視点(製品ごとの戦略)

まずはミクロな視点で。
個別製品ごとに今後の車載戦略を紹介すっぞ。

インフォテイメントは横ばい、もしくは安売り

もともとハーマンが展開していた製品群のシェアは今後もたぶん横ばいだろう。
具体的にはカーオーディオ、インフォテイメント、コネクテッド・カーカー、テレマティクス関連とかそのへんね。

だって異業種のサムスンが親会社になってもハーマンの競争力は強化されないからね。

もしサムスン流の安売りを仕掛ければ新興国向け廉価製品でシェアを伸ばせる可能性はある。
でもまー、たぶんやらないかな。
だって、これは鬼手だもん。
たしかに新興国向け廉価製品は市場成長率が高いけど、
永遠に価格勝負が続くセグメントだから利益に貢献しない。

新興国向け廉価製品のイメージはディスプレイ付きカーオーディオね。
コネクテッド・カーとは一切無関係で2DINサイズでポン付けするだけ。
スマホにつながるゾ的なフィーチャーで
新興国の中間層のハートを鷲掴みにするヤツね。

BCGのPPM(プロダクト・ポート・フォリオ)のフレームワークでそれっぽく表現すると
** 廉価ディスプレイオーディオはStarセグメントだが、Cash Cowには永遠にならず、体力勝負の消耗戦が続くだけ。**
ってな感じ。

電子部品は拡大が見込まれる

ひとくちに電子部品といっても商売いろいろあるけど、
スマホの競争力を武器にして総じて伸びいきそうな予感。

メモリは期待大

フラッシュメモリやDRAMは成長期待大。
ハーマンが使っている分はすぐにでもサムスン製に置き換わるだろう。

さてさて東芝がどう対抗してくるのか?

韓経:サムスンの勝負、3次元NANDに25兆ウォン投資…東芝など引き離しへ | Joongang Ilbo | 中央日報
3Dの先行投資で価格勝負する常套手段

ディスプレイは隠し玉

OLED(有機EL)は車載を虎視眈々と狙いながらも、当面はiPhoneの受注競争に注力しそう。
液晶(LCD)のようにバックライトLEDが不要で自由に成形できる特徴は
スマホよりも車載ディスプレイで重宝されるはずと見た!
とはいえ、この先10年くらいは値段の安い液晶が主流のままだろね。

カメラは未知数

自動車向けカメラの需要は爆像しそうだけど、サムスンの競争力は未知数。
サムスンのホムペをみると
Samsung Electro-Mechanicsっちゅー子会社がやってるみたいだけど
これってスマホ用カメラの転用なのかな?
ミラーレスカメラや複写機など光学分野は撤退方向だし、たぶんなさそう。

SoCはハーマンで悲願達成か

SoCは参入障壁が高いからムリ!
なーんて言われてきたけど、親会社の圧力でなんとかなりそう。
まずハーマンに無理やり使わせて、そこでノウハウを蓄えてから外販する。
サムスンはQualcommのSnapdragonの製造元だし、
似たような自社チップ「Exynos」をつくっているから技術的にも問題なさそう。

日本が失敗した垂直統合

電子部品を内製して最終製品にのっけるという垂直統合型ビジネスモデルは日本企業の得意技だったのにね。
シャープの液晶と電卓しかり、パナソニック全般しかり。

電子部品のコストが新興企業に負けてしまったのが失敗原因だと思うけど、
サムスンの場合、スマホ向けでスケールメリットをがっちり握っているからコスト競争力も強い。
ふーむ、日本企業の失敗をよく研究しているのかもしれないなぁ。

リチウムイオン電池は大苦戦

電気自動車のムーブメントで
「乗るしかない、このビッグウェーブに」
という勢いかと思いきや
サムスンのリチウムイオン電池事業は苦戦しているらしい。

まずEV(電気自動車)向けはLGや日本勢が先行している。
そしてサムスンの稼ぎ頭だったパソコンやスマホ向けは中国ローカル企業から猛追されている。

乾坤一擲の大勝負をかけた中国市場でも、きな臭い噂が絶えない。
さー、大変。さー、大変。
ことの始まりは中国の大本営発表。
大気汚染の環境対策として
2020年までに500万台のEV(電気自動車)を導入するとぶち上げた。
そこに商機を見出した韓国勢のLGとサムスンは
すたこらさっさと電池工場を中国に投資した。

サムスンがぴっかぴかの巨大工場をこさえて
大量注文を手ぐすね引いて待ってたが、
寝耳に水とはこのことだろう、
中国政府が突然の方針転換を発表した。

なんと補助金の支給対象を中国ローカル企業に限定するというのだ。
これにはサムスン・LGの幹部たちも
思わずチャミスルを吹き出したに違いない。

どこの国でも補助金の名目で国内企業を優遇するのは当たり前だが、
中国は露骨さのレベルが違う。

「安全性が高いから(笑い)」
という名目で、実質、中国ローカル企業だけが製造している、
正極材にリン酸鉄リチウム(LiFePO4, LFP)を使った電池のみを補助金の対象に指定し、
LGやサムスン、パナソニックが製造する、
三元系(ニッケル、コバルト、マグネシウム, NCM)は
補助金の対象外とされた。

安全性は建前で、もちろん狙いは中国国内企業を育成するため。
中国ローカル企業は三元系リチウムイオン電池を自動車向けに作る技術がまだまだおぼつかない。
リン酸鉄リチウムは比較的に簡単につくれるし、
(中国企業でも)安全性を確保しやすい。

リン酸鉄リチウムって電池はなかなかのクセモノ。
三元系に比べると重くて性能が悪いし、
カナダのハイドロ・ケベック社が特許を握っている。
だから、いまさらLGやサムスンが新規参入する魅力がないし、
中国ローカル企業は特許料を無視してるから、
参入障壁としてまことに都合がよい。

この一件は韓国・中国の外交問題に発展してるが、
当然、中国政府が規制緩和する気配はZERO。

リン酸鉄リチウムが発火しづらいのは事実なので、
百歩譲って補助金をそれに限定するとして、
だったら最初から言えー!
とツッコミたくなる。

EV500万台をぶち上げたのは海外投資を呼び寄せるための狡猾な策略だったわけだ。
いやはやチャイナリスク、こわいですなー。

そんなわけで中国市場で大苦戦しているわけですが、
ココに来てサムスンがBYD出資したのはじつに興味深い。
BYDに三元系のノウハウを教えて市場浸透させる正攻法なのか、
天下り完了のゴキゲンとりの政治工作か、
はたまた中国市場に参入失敗した場合のリスクヘッジか・・・

今後の動向に目が離せないぜ!来週もまた、見てくれよな!
ってな感じ。

サムスン、中国BYDに接近 EV用半導体供給  :日本経済新聞
「EV用半導体事業の強化が主な目的。今後、多様な事業協力を協議していく」。サムスンは同日、BYDへの出資についてこうコメントを出した。 ...
BYD出資した本音はEV用バッテリーを中国で売らせて欲しいから

サムスンのBYD出資は中国市場成功への布石?:日経ビジネスオンライン
サムスンOBのコラム。読み応えありMAX。

Samsung and LG Have a Battery Problem - Bloomberg
中国のEV補助金政策の方針転換でサムスンとLGが困っているという記事

サムスン、中国BYDに出資 – 自動車用プロセッサ事業の拡大が狙い - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

朝日新聞グローブ (GLOBE)|電気自動車の実力 電池会社から自動車メーカーへ
「なぜ前日になって取材がすべてキャンセルされるのか」 「責任者が当分の間、欧州出張から帰ってこなくなった」 「ならば欧州まで行ってもいい」 「困る。取材は受けられない」 ...
荒ぶるBYDの様子が伺える記事

マニエッティ・マレリは貧乏くじ

マニエッティ・マレリ(Magneti Marelli )もサムスンによる買収報道の噂があるが、
これを買収しても貧乏くじにしかならないだろう。

駄目な理由はポイポイでてくる。
既存事業とのシナジーが薄い、
競合他社のメガサプライヤーの後塵を拝している、
などなど。

サムスンが欲しいというよりも
親会社のフィアット(FCA)が売りたがっている、
というのが実情だったりして。

ハーマンと同じテレマティクス事業だけは欲しいなんてブルームバーグに報道されちゃっているから、
美味しいところだけ吸い取って、あとはポイっってわけにもいかないだろう。世間体がね。

サムスンはフィアットと関係強化に腐心しているらしいから、
マニエッティ・マレリを身請けするってシナリオもありえるかも。

サムスン電子、フィアット系部品メーカーの事業買収で協議-関係者 - Bloomberg
サムスンは特に照明と車載エンターテインメント、テレマティクス事業に関心 ...

マクロな視点(自動車業界での立ち位置)

では次にマクロな視点、
つまり自動車業界全体を俯瞰的に見てみよう。

おそらく自動車部品のビジネスで一番重要なポイントは
大手自動車メーカーに食い込むことだろう。

自動車メーカーは業界統合で寡占化が進んでいる。
世界販売 1000万台級のトヨタ、VW(フォルクスワーゲン)、GMとの取引がなんとしても欲しい。
そうでなければ世界販売200万台級の自動車メーカーに振り回されてしまうだろう。

メガサプライヤーの時代(下) 進む水平分業化 自動車開発は新しい時代に | THE PAGE(ザ・ページ)
ステムの肥大化は、開発資金の高騰を招き、結果サプライヤーは資本規模を要求されるので、最先端のシステムを作れるサプライヤーが厳選されてくる。そうやって生き残ったのが、ドイツのボッシュ、日本のデンソー、ド ...
お金だけでもメガサプライヤーにはなれないのが自動車業界のむずかし~トコロ

韓国企業の弱点はパートナーシップ

トヨタはデンソー、VWはボッシュ、コンチがいる。
といって、サムスンは現代に頭を下げるつもりはなさそう・・・

韓国国内も一枚岩ではない

韓国の産業界では現代、LG、サムスンがわれこそは主導権を競っている。
それぞれが有力財閥という自負があり、
おいそれと頭を下げるつもりはなさそうだ。

気になるのはLGとサムスンの関係。
テレマティクスやリチウムイオン電池は事業領域がもろかぶりしている。
大口案件の受注競争で叩き合いになるかもしれない。
こうなってくると韓国政府のリーダーシップや財閥の政治力が問われてくる。

現代自動車の「1次協力会社」になるサムスン電子 - MK Japanese News List | 韓国経済の窓’ 每日経済新聞
サムスン電子にとって現代自動車は顧客、LG電子は新ライバル ...

Telematics | Infotainment Devices | Products | Vehicle Components | Business | LG Global
1st in market for embedded LTE telematics(2014)  ...
LGはLTE対応テレマティクスの世界シェア1位

韓経:LG、VWと提携で「コネクテッドカー」プラットホーム開発へ | Joongang Ilbo | 中央日報
LG電子がフォルクスワーゲンの戦略的供給会社に ...

韓経:LGエレクトロニクス、トヨタのテレマティクス部品受注 | Joongang Ilbo | 中央日報
難しい基準にひっかかり失敗を重ねていたが今回初めて成功した ...

FCAとの関係強化に出口を模索か。

買収したハーマンのソフト(Redbend等)はギブアンドテイクの武器になりそう。
現代自動車に頭を下げたくないサムスンはFCAと関係強化を模索していくかもしれない。

サムスン電子の李在鎔副会長、自動車電装事業育成のために乗り出す - もっと! コリア (Motto! KOREA)
エクソールグループの所有者は、フィアットグループを創業したイタリアの名門アニェッリ一族だ。現在の会長は創業者のジョヴァンニ・アニェッリ会長の外孫のジョン・エルカン氏が務めている。イ・ジェヨン副会長はジ ...
サムスンはFCAと信頼構築に腐心している

「フィアットの部品部門…サムスン、買収交渉中」 | Joongang Ilbo | 中央日報

予想

ミクロな視点(虫の目)、マクロな視点(鳥の目)、ときて最後は魚の目。
よーし、おとうさん、今後のトレンドをびしばし見抜いちゃうぞー。

韓国は勢いあり

テレビ、家電、スマホなどなど
ありとあらゆる民生電子機器で韓国企業は日本企業をすっかり追い越したが、
自動車産業はかなり苦戦しそう。
しかも背中には中国企業が迫っているわけで、
うかうかしていられない。

けっこう苦しい戦況にみえる。
しかーし、連戦連勝してきた勢いがサムスンにはある。
メーク・ミラクル、あるかもしれないねー。

日本は安泰か?

日米貿易摩擦やらバブル崩壊とかありながらも、
自動車産業は日本が世界的に競争力が高い成功例。
強さの秘訣はすりあわせなのでしょーかね。

でもさ、こういう戦い方ってどうよ?
業績とか戦略とかとは別の次元で、
そこはかとなく時代の雰囲気にそぐわないようにも思う。
半島をいでよ!・・・なーんて叫びたくなる今日このごろ。

デンソーが今、カーナビ会社を買う真の理由 | 自動車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
「大型M&Aは(デンソーの)文化に合わない。文化が合って一緒にやっていけるところと組んでいきたい」(有馬社長) ...

アメリカは横綱相撲

世間が自動運転だ、コネクテッド・カーだと騒いでいるが、
アメリカはどっしりかまえた横綱相撲に見える。

デトロイトのBIG3が崩壊しても、
テスラ、グーグル、Uber、アップルなどイノベーションの源泉は尽きない。
ぽっと出のベンチャー企業は潰れやすいのが弱点だけど、
そのあたりもアメリカはぬかりない。

軍事技術や航空機で先端技術はがっちり蓄えているし、
お金が足りなくなれば国債を印刷して日本に買い取らせればいいのだから。
たまらないねー。

中国の夜明け

今はまだ、かすかだけど、聞こえてくる足音があるぅ。
それは中国企業。

リチウムイオン電池の補助金はやり過ぎ感があるけれど、
これからもローカル企業の育成を最優先していくはず。
眠れる獅子が目を覚ましたゾ!ガオー!!
となるとき、勢力図は大きく塗り変わるはず。